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6.束縛のキスマーク
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「お茶淹れるね。航はコーヒーがいい?」
「美織と同じでいい。どうせ紅茶だろう?」
「うん」
「砂糖なしで」
「わかってる」
有名な焼き物の産地で買った、おそろいの陶器のマグカップに紅茶を淹れる。
以前、航とふたりで旅行したときに記念に買ったマグカップは、グレーがかった白い色をしていてモダンなデザイン。それでいて素朴な土の風合いに温かみを感じて、ひと目惚れしたものだ。
紅茶をリビングのテーブルに置いて、手提げ袋からクッキーの入ったセロファン袋を取り出す。黄色いリボンを解き、先に航にクッキーを取ってもらった。
航はなんのためらいもなく、クッキーを口に入れると、「あ、うまい」とつぶやいた。
「航がお菓子を気に入るって珍しいね」
「これなら食えそう。美織も食べてみろよ」
一枚食べてみると、甘さ控えめ。シンプルなプレーン味だけど、アクセントにナッツが入っていてめちゃめちゃおいしい。
「航が甘いものを苦手だって知ってて、お砂糖の量を少なくしてくれたんだね」
「そうなのか。だから食べやすいのか」
おふたりでどうぞと言いながらも、雫さんの航への愛を感じるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいなんかじゃない。甘さ控えめもそうだけれど、ふたり分にしてはやけに量が少ない。
「もしかして嘘?」
「は?」
「このクッキー、航のためだけに作ってきたものなんだよね? 『おふたりでどうぞ』なんて、雫さんは言ってなかったんじゃない?」
案の定、航はバツが悪そうに黙り込む。
そういうことなら食べるわけにいかない。というより、食べたくない。
「よくわたしに食べさせたね。ほかの女の子の想いのこもったものなのに」
「悪かったよ。でもだからって、ひとりで食うのもどうかと思ったし、かといって捨てるのも心苦しいっていうか。食べ物には罪はないからな」
気持ちはわかる。でも、どうしてもすっきりしない。その理由は航にあるのではないから……。
雫さんの純粋な想いが怖い。
わたしの想いがそれに劣っているとは思っていない。だけどまっすぐに航に向けられていると、ふとしたときに航の心に入り込んで、取り返しのつかないことになるんじゃないかと思ってしまう。
航に限ってそんなことはあるはずないと思っているのに、どうして不安になるのだろう。
「わたしも今度挑戦してみようかな、クッキー。雫さんみたいに上手に作れるかわからないけど、自分で作れば甘さを調節できるから、航にも食べてもらえるってわかったし」
「なに張り合おうとしてるんだよ。やきもち焼くなんてかわいいな」
「べ、別にそんなんじゃないから!」
図星を突かれ、悔しくて言い返した。
「安心しろよ。俺が好きなのは美織だけだよ。できればこの部屋にずっと閉じ込めて、誰の目にも触れさせないで、俺だけのものにしたいくらいなんだから」
肩を抱かれ、頬に唇を寄せられた。やわらかく吸われ、リップ音が鳴る。
「誓うよ、どんなことがあっても俺は美織を裏切らないから」
わたしの心を見透かして、航はほしい言葉をくれる。上辺だけじゃない、本心だってわかるから、安心できる。
「ありがとう。信じてるから」
航の顔を見て言うと、顎を持ちあげられて、唇にキスされた。静かにゆっくりと味わうように重ねられ、そして離れた。
残りのクッキーを仲よく半分にわけて、それぞれ完食した。航がおそろいのマグカップで紅茶を飲むのを横目で見ながら心が安らいでいく。
こうやってふたりの思い出が積み重なっていくんだなあ。
喧嘩をしたりやきもちを焼いたりしても、その都度仲直りして絆を深くしていく。結婚してからもそれは続いて、いつか子どもができたら、この喜びが二倍、三倍になっていく……。だったらいいな。
「美織と同じでいい。どうせ紅茶だろう?」
「うん」
「砂糖なしで」
「わかってる」
有名な焼き物の産地で買った、おそろいの陶器のマグカップに紅茶を淹れる。
以前、航とふたりで旅行したときに記念に買ったマグカップは、グレーがかった白い色をしていてモダンなデザイン。それでいて素朴な土の風合いに温かみを感じて、ひと目惚れしたものだ。
紅茶をリビングのテーブルに置いて、手提げ袋からクッキーの入ったセロファン袋を取り出す。黄色いリボンを解き、先に航にクッキーを取ってもらった。
航はなんのためらいもなく、クッキーを口に入れると、「あ、うまい」とつぶやいた。
「航がお菓子を気に入るって珍しいね」
「これなら食えそう。美織も食べてみろよ」
一枚食べてみると、甘さ控えめ。シンプルなプレーン味だけど、アクセントにナッツが入っていてめちゃめちゃおいしい。
「航が甘いものを苦手だって知ってて、お砂糖の量を少なくしてくれたんだね」
「そうなのか。だから食べやすいのか」
おふたりでどうぞと言いながらも、雫さんの航への愛を感じるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいなんかじゃない。甘さ控えめもそうだけれど、ふたり分にしてはやけに量が少ない。
「もしかして嘘?」
「は?」
「このクッキー、航のためだけに作ってきたものなんだよね? 『おふたりでどうぞ』なんて、雫さんは言ってなかったんじゃない?」
案の定、航はバツが悪そうに黙り込む。
そういうことなら食べるわけにいかない。というより、食べたくない。
「よくわたしに食べさせたね。ほかの女の子の想いのこもったものなのに」
「悪かったよ。でもだからって、ひとりで食うのもどうかと思ったし、かといって捨てるのも心苦しいっていうか。食べ物には罪はないからな」
気持ちはわかる。でも、どうしてもすっきりしない。その理由は航にあるのではないから……。
雫さんの純粋な想いが怖い。
わたしの想いがそれに劣っているとは思っていない。だけどまっすぐに航に向けられていると、ふとしたときに航の心に入り込んで、取り返しのつかないことになるんじゃないかと思ってしまう。
航に限ってそんなことはあるはずないと思っているのに、どうして不安になるのだろう。
「わたしも今度挑戦してみようかな、クッキー。雫さんみたいに上手に作れるかわからないけど、自分で作れば甘さを調節できるから、航にも食べてもらえるってわかったし」
「なに張り合おうとしてるんだよ。やきもち焼くなんてかわいいな」
「べ、別にそんなんじゃないから!」
図星を突かれ、悔しくて言い返した。
「安心しろよ。俺が好きなのは美織だけだよ。できればこの部屋にずっと閉じ込めて、誰の目にも触れさせないで、俺だけのものにしたいくらいなんだから」
肩を抱かれ、頬に唇を寄せられた。やわらかく吸われ、リップ音が鳴る。
「誓うよ、どんなことがあっても俺は美織を裏切らないから」
わたしの心を見透かして、航はほしい言葉をくれる。上辺だけじゃない、本心だってわかるから、安心できる。
「ありがとう。信じてるから」
航の顔を見て言うと、顎を持ちあげられて、唇にキスされた。静かにゆっくりと味わうように重ねられ、そして離れた。
残りのクッキーを仲よく半分にわけて、それぞれ完食した。航がおそろいのマグカップで紅茶を飲むのを横目で見ながら心が安らいでいく。
こうやってふたりの思い出が積み重なっていくんだなあ。
喧嘩をしたりやきもちを焼いたりしても、その都度仲直りして絆を深くしていく。結婚してからもそれは続いて、いつか子どもができたら、この喜びが二倍、三倍になっていく……。だったらいいな。
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