束縛フィアンセと今日も甘いひとときを

さとう涼

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11.指輪に秘められた想い

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 ステンドグラス美術館に到着すると、駐車場にはすでにたくさんの車が駐車していた。
 開館時間は午前九時。今はまだ開館して間もない時間だ。この様子だと、このあとも続々と来館者が訪れるだろう。

 わたしたちは車を降りると、まず駐車場から建物を一望した。
 十九世紀のイギリス、ヴィクトリア朝の建築をモチーフにしてデザインされた建物は、赤レンガの鮮やかな色が緑のなかで一際映え、ここだけ異国の雰囲気を醸し出している。

「素敵な建物だね。ここに来るの、すごく楽しみにしてたんだ。テレビやスマホの画面越しには見てたけど、実際目の前にすると感動が増すよ。なんでこういうデザインになったの?」
「十九世紀に作られたステンドグラスが数多く展示されているんだ。たとえば実際にイギリスの教会に飾られていたものとかね。だからその時代に合わせたんだよ」
「そんな貴重なステンドグラスなら、手に入れるの、かなり大変じゃなかったの?」
「作品の多くは亡くなった深見家のじいさんのコレクションなんだよ。ずっとじいさんの別荘に保管してあったんだけど、いつかみんなが見られるように飾ってほしいと言われていたんだ」
「遺言?」
「そんな大げさなものでもないけど。俺が子どもの頃、じいさんにそれを見せてもらったことがあって、ちらっとそんなことを言ってたんだ」

 航が照れくさそうに小さく笑う。
 ああ、そうか。航は何年も前からこのときを待ち望んできたんだ。ひとつの目標として。

「航はすごいね。立派に仕事を成し遂げてる。こうしてここにいられるのは航の活躍のおかげなんだね」
「それは違うよ。俺だけががんばったわけじゃないから。プロジェクトのメンバーや建設業の人たち、そのほかにも大勢がこの仕事にかかわっているんだよ」

 わたしは航のこういう謙虚なところも好きだ。尊敬する上司や先輩のもとで日々成長させてもらっていると常々言っている。けれど深見一族の人間だからこそ感じるプレッシャーに打ち勝つため、わたしはもちろん、会社の人たちの知らないところでも、たくさんの苦労と努力をしているに違いない。

「ここに連れてきてくれてありがとう。テレビの情報番組で知ったんだけど、この場所は深見家の別荘跡地なんだってね。もしかして、おじい様の別荘があったところ?」
「うん。ここは俺にとって唯一楽しい思い出のある場所……。じいさんは俺にやさしかったから」
「え?」
「今は普通に話せるけど、昔は親父が怖かった。勉強にスポーツに習いごと。高校まで全部親父の命令でやらされて、俺のやりたいことはなにひとつ許されなかったから」
「そうだったんだ。航がそんな話をしてくれるの、初めてだね」

 多くの教育を受けてきたことは知っていたけれど、航がどんな気持ちでいたかなんて考えたことがなかった。恵まれた環境、大きな期待をかけられて育った航がむしろうらやましいと思っていた。

「でも今は親に感謝してる」

 航は誇らしく語る。短い言葉にこれまでの苦労や達成感を重ねているのかもしれない。
 不思議だなあ。航と知り合ってもう六年になるのに、航の新しい一面を知ることになるなんて。
 まだまだあるのかな。結婚して家族になったら、また違う航を見ることができるのだろうか。
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