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臭い、臭い!
しおりを挟む馬の嘶きに車輪が転がり、ガラガラと大きな音を立てて馬車は走って行く。5人に向かって歩いていた3匹のブフリムも、音に気付いて馬車のあった場所へと走って来る。ブフリムの居た場所と馬車のあった場所の間に僕達の寝床がある訳で、迷惑な事この上無い。
「殺るわ。任せて」
任せた。食事を邪魔されたガキ共が街道に出て来た。1、2…4匹…4匹だ。馬のおしっこの場所でギャーギャー騒いでる。
「ユカタ、セーナ、いつでも良いわよ」
「おはよう」「風よ、大地よ……」
背後からレイさんの声。騒ぎに乗じて出て来たようだ。セーナが呪文を唱えると、レイさんも唱え始める。
「火の精霊よ、顕現し、呑み込め、フォティアス・キーマッ」
レイさんから放たれた小さな火の玉は、枯れ草を焦がしながら地面を進み、街道に出ると大きく燃えて、ターゲットとその近くに居た2匹に浴びせ掛かり火だるまにした。少し遅れて飛び出した僕は突然の火柱に驚いたが、動きを止める事無く1番近くに居た火だるまに槍を突き刺す事が出来た。左の胸に深々と刺さった槍を抜くのは時間が掛かるので、槍で突き倒すと手放して抜剣。近くに居た火だるまの首を狙って横振りした。
3匹目の火だるまは転がって悶絶してるので、無事な1匹と対峙する。勢いを殺さず突進し、左下段構えからの斬り上げがブフリムの腹を掠める。ゴリッとアバラを擦る音。さらに踏み込み袈裟斬り。今度は肩に食い込む当たりで敵は前のめりに倒れ込む。身を引いて倒し、背後に周り腰を一突き。背中を踏み付け剣を抜き、後頭部への一突きで止めを刺した。悶絶していた敵は既に火が消え、動かなくなっていたが頭を叩き割って確実に仕留める。最初に槍を刺したヤツも止めを刺した。
ブフリムは臭い。殺すともっと臭い。臭い空気を吸わないように、風上側から金目の物を剥ぐ。主に首や腰に着けた袋だ。もちろん袋も臭いので、中身を取り出したら投げ捨てる。1匹ずつ袋を回収しながら草藪に捨て、袋も当然投げ捨てた。
「ふぅ、はぁ、ふ~…。臭い」
「見事だったわ」「コッチも終わらせたわ」
「3匹だっけ?臭いけどやるしか無いか…」
風上に近いので置いておく訳には行かない。新たな敵を呼ぶのもあるが、臭くて眠れないのだ。まあ、今夜はもう寝られないだろうが。
セーナが殺った3匹は触りたく無い程損傷していたが、心を無にして処理をする。袋の中身に期待して。そして期待は裏切られた。
「はぁ、はぁ、臭ぇ」
「水、使う?」
「多分足りないもん。山を降りて川に行くまでこのままだね…ふぅ…」
臭い思いをして、袋の中身が鉄貨と銅貨では報われない。セーナの分の報酬も、臭いからって押し付けられた。14,31ウーラ也。剣と槍の汚れだけは取らないと殺傷力に関わるので草と水で洗っておいた。
「ユカタさん、見事に敵を払ったと聞いて来たのだけど」
「頑張りましたね」「臭くなりましたね」
外が落ち着きを取り戻すと、テントの中から出て来た女性3人が護衛を連れて遊びに来た。臭いんだからあまり近付かないで欲しい。
「お前、殺れるんだな」「正直飾りだと思っていたぞ」
護衛の2人は僕の事を数に入れてなかっただけに、前に出て斬り合うのを見て感心したそうだ。感心してないで助けて欲しい所だが、護衛の2人はテントの中の3人を守るのが仕事。持ち場を離れる訳には行かないのだ。これは仕方無い。
「洗って差し上げて」「はい」
貴族っぽい女性が隣にいる女性に声を掛けると、僕に寄って来る。
「洗う?川も無いのに?」
「魔法で洗います。息を止めて、目を閉じてくださいね。耳と鼻も」
器用な事をさせるなぁ。両手で耳と鼻を抑え、息を止める。洗うと言ったら風呂屋で水の壁を受けたっけ。
「水の精霊、聞き応えよ、穢れを払い清め給え、ピリーシモ」
「うぷっ」
全身が水浸しになり、パンツが濡れて凄く気持ち悪い。
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