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お母さん、またね
しおりを挟む「お待たせしてしまい申し訳ございません。あの、通してください。荷物通りまーす」
おずおずと荷物を抱えたコラリーさんが入室し、靴や服をセットにして行く。これを着て学園に通わなきゃいけないそうで、なんでこんなの着るのかと言うと、貧富の差を埋めるためなんだって。金貨2枚出せる家に貧富の差があるのか分からないけど。
ベッドを囲うカーテンを閉めて服に袖を通してく。シャツ3枚、ズボン2本、ジャケット2着、靴2足が支給された。ズボンとジャケットは期末休みに交換されるそうだ。シャツと靴は買えだって。
「1番小さいのでも少し長いですね」
「グリーブ着けたら大丈夫だもんっ」
装飾扱いだからダメだって。何だその不条理な規則は?切ってもいけないと言うので折り込んで済ませる。
「なかなか似合ってるわよ」
一揃えサイズを合わせて着替えを終えると、カーテンの向こうから顔だけ出したセーナに覗かれてた。
「自分がされて嫌な事はしないものだよ?」
「ごめんなさいね。早く見たかったのよ」
「では次に、学生寮に案内します。セーナ様はどうされますか?」
「ん…。可愛い子には旅させなきゃね。私はここで子離れするわ」
「ありがとうお母さん」「誰がよ!」
自分から言って来たクセに。僕がコラリーさんに付いて部屋を出ると同時に、男の名乗り向上が始まった。分かってたけどアレが学園長らしい。1年経ったらアレの下で働くのか…。
「あ、コラリーさんは卒業したてだったりするの?」
「え?そう見えます?」
前を歩くコラリーさんを見ててつい気になって聞いてしまった。女性の歳を聞く様な事を言った事に気付いて慌てて取り繕う。
「な、なんか、僕と歳変わらなく見えたんだ。違ってたらごめんなさいだけど」
「んーー良いのっ。良いのよぉー?…けどね?本当はユカタ君より年上お姉さんなの。セーナ様よりはずっとずーっと下なのだけどね?」
失礼な事を言ってしまったが、上機嫌になったコラリーさんの後ろに付いて歩く。学舎から出て右へ進み、学生用玄関を通り過ぎ、正面の大きな建屋の裏を左へ曲がって木々の中を道なりに進むと大きな建屋が見えて来る。ここが学生寮で、中に食堂が併設されていると言う。朝食と同時に弁当を受け取り、昼は学園の敷地内で食べて、夕飯は食堂で摂ると言うシステムなのだそうだ。
「今は生徒が授業中だからガラガラだけど、朝晩は混み合うから早め早めの行動が良いわよ」
「もう授業始まってたの?」
「そうね。入学は一月前くらいに終わっているのよ。君みたいに中途で入る子も少なくないから安心して。けど今日はもう諦めなさい?」
学生が木剣振ってておかしいとは思ってたんだよな。まさかもう授業が始まっていたとは。しかも1月も経っている。受けてなかった分の授業は、月に5回、週に2日ある休みの1日を使って補習があるそうだ。5、10、15…30日だと6ヶ月掛かると思ったが、纏めてやるのでその半分くらいで済むそうだ。それでも3ヶ月はする事になる。
「ここが食堂。お昼は用意して…無いわよね?」
「移動中の食材が残って…セーナのお鍋、コッチの背嚢に入ってた…。とにかく昼は持つよ」
「それなら部屋に行って荷物を置いたら返しに行きましょう」
「それだとスープ作れなくなるけど」
「移動中にスープ?よくそんな時間あったわね。普通、冒険者って干し肉と堅パンくらいよ?」
それは他の冒険者が寝過ぎなんだと思う。考えてみたらムルザバからアッゼニまでの旅程で、僕達以外に料理してる客なんて居なかったな。
「ココがユカタ君の部屋ね」
「ココ?」
食堂を抜けて正面。どうやっても迷いようの無い場所が僕に充てられた部屋だそうだ。部屋を正面に見て、左が共同浴場、右が1階共同トイレ。凄く変な立地だと思う。
ドアを開けて納得した。倉庫だった。
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