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静かに、怒る
しおりを挟む日を跨ぎ、再びお花摘みの日となった。今日の門前はエリザベス家の半個小隊と隊長、補佐の52人の他に、クリスエス商会からも見送りの人達が来ている。
「ジュンよ、おお。怪我だけはしてくれるなよ!?」
会頭のおじいさんが頬擦りする勢いでジュンに絡んでる。
「誰あれ」「ジュンのおじいさん。お昼ご飯くれる人だよ」
ロシェルは引き気味に聞いて来るので警戒を解いとこう。
「ユカタ、準備はよろしくて?」
「大丈夫です。今日は指示役お願いします」
「お任せなさい。では皆、怪我無きよう。出立っ」
ガシャン!ガシャン!
兵隊達が剣を叩いて返事をするが、兵隊達に言ったんじゃないからな?
僕とロシェルとマキが前、その後ろにレイナとエリザベス様とジュン。殿に取り巻き4人が横並びとなって進んでく。新顔の取り巻きは丸盾に棍棒のパワータイプで初めて見る顔だ。殿の後ろに52人もの兵隊がいるので安全な場所ではあるが、初めての参加だし流れを見てもらうのと温存戦力と言う事で後ろに着いてもらった。
「なあ、敵出ねーの?オレ腹減っちゃったよ」
「アタシもー」
後ろから聞こえて来る新顔のボヤキに、隣からも同意の声が上がる。
「今日は運が良いな。敵は出ないに限るよ」
食い物の話をスルーして、どんどん谷間を進んで行った。やはり前回は運が悪かったのだろう。前回昼食を食べた平みまで一度も会敵しなかった。
「ユカタ、居るよ」
「数は8、少し多いですわね」
エリザベス様は感知系のスキルでも持っているのだろうか?僕より後ろなのによく分かるな。
「へへっ、1人2匹だな?」「あっ、お待ちなさいっ」
指示役の声を無視して後ろから新顔が抜け駆けし、前衛の間を割って飛び出した。
「ユカタ、どーする?」
「囲ませて更に囲もう。エリザベス様、どうですか?」
「そうですね、勝手は許されません。私も出ます。レイナ嬢は指示を」
「承りました。前衛は正面から、後衛は左へ回り込みながら叩きます。お互い射線に気を付けて」
皆歩く速度を早めて新顔を追う。平みの上では既に戦闘が始まっていた。案の定囲まれてやがる。不意討ちは成功しているようだがせめて背後に木を背負え。
「風の精霊よ…」「土の精霊よ…」
後衛達の詠唱が始まった。敵を散らさないよう動かねばならない。ロシェルは手馴れた様子で背を向けるブフリムにナイフを突き刺し息の根を止める。続く僕が槍で突く。殺れてはないが、動けなくはした。マキは後衛の位置を見ながら牽制に回るようだ。
「ユカタ!魔法撃ちます!放てっ!」
風と土の魔法が僕の横を抜けて敵に放たれると、新顔は驚いた様子で体勢を低くし盾を構えた。だがその隙を見逃さなかった1匹に背中を叩かれる。木の棒でなければ死んでいるだろう。
魔法の斉射が敵を撃つ。後衛に近かった3匹は倒れ、1匹が負傷。健在な残り2匹にロシェルと僕が迫って倒した。
「マキ、トドメ刺してっ」
「承知しましたっ」
倒れてても生きてる可能性があるのでマキに声を掛け、前衛3人で頭を潰したり首を斬ってトドメを刺す。まだマキは慣れてないようで、短剣を突き刺して息を荒くしていた。
「エリザベス様、剥ぎ取ります」
「良しなに」
袋の中身を回収し、新顔と合流する。
「なっ、何で撃ったんだよ!?」
「敵を倒すためだよ。お前は指示も聞かないで何やってんだ?」
「オレだって、敵を殺ってたんだ!」
「1人で殺り切れないクセに生言うな。みんな怪我無くで終わらせるんだから慎重にやれよ」
「ユカタ、そこまででよろしいでしょう」
指示役のエリザベス様が言うのであれば下がる他ない。僕は臭くなった槍をボロ布で拭うため、同じくしてるロシェルに寄って行く。
「エヴィナ。私に恥をかかせぬように。其方の無粋な行動でパーティーを危険に晒したならば…お分かりね?」
「…はい…分かり、ました」
エリザベス様、怒ってるな。
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