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ユカタ、女になる
しおりを挟む退屈は敵。どこかで聞いた言葉だが、今日からは食事とトイレ、村に着いての馬替え以外は車内で過ごす事になる。3日で着くのだから退屈な時間は半分になったハズなのに、やる事が無いので余計に感じてしまう。
「ギャギャッ」「ガウッ」
外では兵士達が魔物の群れと戦ってる。ブフリムにウォリスが数匹だろうか。魔物と聞いて腰を上げたが出るなと釘を刺されては、拗ねて横になるしかない。理屈は分かる。もちろん死んだらいけないし、逃げるにしても馬のない僕が走って逃げるのは現実的でない。馬車に乗り込む時間すら惜しいのだ。
「左っ、残り3っ」「出るぞ!殿に4騎付けっ」「「「「はっ」」」」
前方の敵が排除されたのだろう。途中で逃げる選択をしたようだ。狩っても稼ぎにならないのなら戦うだけ無駄だもんな。冒険者の場合、出来るだけ皆殺しにして討伐部位や剥ぎ取りをする。コレが主な稼ぎだからだ。剥ぎ取りもせず逃げ出す事に、少し勿体ないなと感じてしまう。
「どーせ雑魚だよ」
ロシェルは僕の考えてる事が分かるみたいだ。
「焼いたり埋めたりしないと、アンデッドになっちゃうね」
「他の魔物が食べてくれる事でしょう」
「魔物が増えるわね」
「依頼を請けたりして、冒険者がソイツ等を狩る。経済を回すって事だな。寝ろ寝ろ」
そんな感じで本当に食ってうんこして寝るだけの3日間だった。不寝番したり外に出て戦ってた方が全然楽だと思ったよ。
王都ドーヴィルに着いて、馬車が止まったのは以前もお世話になったエリザベス様のお屋敷。今回も離れに泊めてもらえるそうだ。
「お前等、抜かるなよ?」
「「「はい」」」「はーい」
「特にお前ぇ、ユカタの旦那を泣かせるな?」
「ウチのお嬢にも泥塗るって事だからな」
「わ、分かってる。分かってますっ」
「そこは承知しました、だ」
3人衆はともかく、ロシェルは初潜入だからな。迂闊な事して首撥ねられたら寝覚めが悪い。ほぼ確実に当主様が居るとメイドは言う。娘と会うために仕事を休む父親は少ないが、それが国からの命を受けているのならば休まない訳が無い。なんなら僕達との場にまで付いて来るだろうと付け加えた。何それすごく困る。
ドアがノックされ、メイドがドアを開けて外に出る。もう1人に促されて4人が出て、僕も出る。
「うわ…」
この屋敷、こんなにメイドが居たのかってくらいメイドと執事が並んでた。メイド達の注目はエリザベス様達の方に集中してるので少しは楽だが、同時に不安にもなる。
「僕、一緒に並んでても良いよね?」
「ユカタ。手、握ってて」
「呼ばれるまで、お静かに」
「何固まってんのよ。早く来なさい」
みんなしてメイドさん達の列に並んでたらセーナに呼ばれてしまった。
「あンた達もよ」
「手、繋いでて」「うん」
メイド服とメイドも呼ばれた。呼ばれなかったら僕達全員、エリザベス様の家のメイドさんと一緒に働く事になっていただろう。エヴィナのメイド達も流石に緊張してるな。当主様が居るのは間違い無いだろう。
「戻ったな」
「無事お迎え致しましたわ、お父様」
玄関の扉が開かれ、執事服のお爺さんともう少し背の高い貴族服のお爺さんが姿を見せる。貴族服のお爺さんがエリザベス様のお父様。この家の当主様だな。
「ユカタ、ロシェル、私を真似なさい」
レイナが頼もしい。エリザベス様と当主様が言葉を交わし、エヴィナやセーナと名を交わす。そしてコチラに視線が向くと、メイドとレイナは頭を下げた。すかさず平民組も頭を下げる。
「うむ。まずは疲れを癒すが良い。使用人共は好きに使え」
「はい。それではまた後程」
当主様が屋敷に戻り、誰となく息が漏れる。
「旦那、礼の取り方が女形でしたぜ…よ」
「ん?」「あ」
男は掌を脚の横、ズボンの縫い目に合わせるんだって。レイナも言われて気付いてた。今日からしばらく女の子として過ごすか。
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