【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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謁見の、夜に

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 貴族様の誰かだろうとは予想してたので、早めに立って頭を垂れる。

「ユカタです」

「うむ、しばらくだな」

 頭を下げてて誰かは分からなかったが、しばらくなんて言うって事は、前に顔合わせした事のある人だよな。僕の事名指しで入って来たけど誰だろう。

「殿下、あまりはしゃぐとユカタに笑われましてよ」

 あ、この声は知ってる!そうかこの人は…。

「お久しぶりです、ルメートル王子殿下。ご機嫌うるわしゅうございます」

「いずれ来ると思って待っておったぞ」

 いずれ来る?呼んでもないのに?

「よく私めが来たとお分かりになられましたね」

「魔道砲の使いが来たと、な」

 まあ報告は受けるか。待っていたのならセーナの使いが来たら報告せよ…って感じか。

「ユカタ、久しぶりね」

「王子妃様もご機嫌うるわしゅう」

「商談は終わっているのよね?」

 レイさんの言葉を肯定すると、ならば陛下と私に付き合いなさい、だって。平民が否定出来る訳ないでしょうが。

「エリザベス様」

「両殿下、エリザベスに御座います。皆様との同行を、お許し願いたく存じます」

「…叔母上の娘では無下に出来ん。同行せよ」

「ありがたき幸せに御座います」

 エリザベス様のお父様って確か男爵家だったよな。王子様のお母様の姉妹って、確か公爵家だよな?公爵家から降嫁されてんのか。良いのか?それよりエリザベス様って王子様と従兄弟だったのか。そう言うのって平民がホイホイ聞いちゃいけない話だと思うので黙っとく。

「他の者は別室にて寛いでおるが良い。では行くぞ」

 はしゃいでいるのか強引なだけか。行くぞと言って連行される僕。頼みの綱はエリザベス様だけだが後ろから付かず離れず付いて来るだけで大人しい。城に入り、迂闊に声も掛けられないので大人しく廊下を歩くしか無かった。

 で、連れて来られたのは王子様の執務室。造りは冒険者ギルドのギルマス室みたいだけど、貴族の部屋らしく調度品が置いてあったりメイドさんが並んでたりして華がある。

「ふう。掛けてゆっくりしてくれ。今茶を出そう」

「言葉も戻して構わないわ」

「良かったですわね、貴方様」

 良かったですわよ。沈み込むソファーに掛けて、出されたお茶で口を湿すと声を出す。

「待ってたって言ってたけど、僕に用があるの?それともセーナ宛?」

「ユカタよ。用があるのはお前にだ」

 僕何かやっちゃいましたか?何もしてないハズだよね?

「お前には、妻を護衛してくれた恩がある。その礼をしなければこの城に魔道砲が撃ち込まれる事だろう」

 セーナは所構わず魔道砲を撃つんだな。まあ断らせないための方便か。で、どんなお礼をくれるのかと話を聞いて、僕は固まってしまった。

「男爵位とは…よろしいので?」

「領地も俸禄も無いがな」

「まさか、お父様とお母様が何か?」

「……」「そうね、打診はあったわ。けど叙爵を最初に決めたのは殿下よ」

「准なんて言葉、使った事が無いと申されてな」

 外部からの圧力に負けたのか、この国で3番目に偉い人は。

「ユカタよ。叙爵を受けぬとは言わないでくれよ?」

「こ、断れる訳ないでしょう?」

「謹んでお受け致しますわ」

 やっと出た僕の言葉に続いてエリザベス様が受けてしまったが、断れないなら仕方無し。謹んで受ける事にした。



 叙爵が決まり、2日後。僕は男爵になった。初めて国王様に謁見したし、この2日間宿でカンヅメにされてみっちり練習した。儀式の練習は当然として言葉遣いや作法を叩き込まれ、僕は心身共に疲れ果ててしまい、甘えてしまった。

「ロシェルゥ、本当に大丈夫なの?僕禿げちゃうよ」

「アタシだって不安だもん。金貨払ったんだから、ダメだったらアタシが困るよぉ」

「自分のお金じゃ無いんでしょ?」

「…やっぱり払って来よっかな…」

「安心なさいませ」「そうだぜ?」

 僕はロシェルに甘えてしまったのだ。









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