255 / 385
謁見の、夜に
しおりを挟む貴族様の誰かだろうとは予想してたので、早めに立って頭を垂れる。
「ユカタです」
「うむ、しばらくだな」
頭を下げてて誰かは分からなかったが、しばらくなんて言うって事は、前に顔合わせした事のある人だよな。僕の事名指しで入って来たけど誰だろう。
「殿下、あまりはしゃぐとユカタに笑われましてよ」
あ、この声は知ってる!そうかこの人は…。
「お久しぶりです、ルメートル王子殿下。ご機嫌うるわしゅうございます」
「いずれ来ると思って待っておったぞ」
いずれ来る?呼んでもないのに?
「よく私めが来たとお分かりになられましたね」
「魔道砲の使いが来たと、な」
まあ報告は受けるか。待っていたのならセーナの使いが来たら報告せよ…って感じか。
「ユカタ、久しぶりね」
「王子妃様もご機嫌うるわしゅう」
「商談は終わっているのよね?」
レイさんの言葉を肯定すると、ならば陛下と私に付き合いなさい、だって。平民が否定出来る訳ないでしょうが。
「エリザベス様」
「両殿下、エリザベスに御座います。皆様との同行を、お許し願いたく存じます」
「…叔母上の娘では無下に出来ん。同行せよ」
「ありがたき幸せに御座います」
エリザベス様のお父様って確か男爵家だったよな。王子様のお母様の姉妹って、確か公爵家だよな?公爵家から降嫁されてんのか。良いのか?それよりエリザベス様って王子様と従兄弟だったのか。そう言うのって平民がホイホイ聞いちゃいけない話だと思うので黙っとく。
「他の者は別室にて寛いでおるが良い。では行くぞ」
はしゃいでいるのか強引なだけか。行くぞと言って連行される僕。頼みの綱はエリザベス様だけだが後ろから付かず離れず付いて来るだけで大人しい。城に入り、迂闊に声も掛けられないので大人しく廊下を歩くしか無かった。
で、連れて来られたのは王子様の執務室。造りは冒険者ギルドのギルマス室みたいだけど、貴族の部屋らしく調度品が置いてあったりメイドさんが並んでたりして華がある。
「ふう。掛けてゆっくりしてくれ。今茶を出そう」
「言葉も戻して構わないわ」
「良かったですわね、貴方様」
良かったですわよ。沈み込むソファーに掛けて、出されたお茶で口を湿すと声を出す。
「待ってたって言ってたけど、僕に用があるの?それともセーナ宛?」
「ユカタよ。用があるのはお前にだ」
僕何かやっちゃいましたか?何もしてないハズだよね?
「お前には、妻を護衛してくれた恩がある。その礼をしなければこの城に魔道砲が撃ち込まれる事だろう」
セーナは所構わず魔道砲を撃つんだな。まあ断らせないための方便か。で、どんなお礼をくれるのかと話を聞いて、僕は固まってしまった。
「男爵位とは…よろしいので?」
「領地も俸禄も無いがな」
「まさか、お父様とお母様が何か?」
「……」「そうね、打診はあったわ。けど叙爵を最初に決めたのは殿下よ」
「准なんて言葉、使った事が無いと申されてな」
外部からの圧力に負けたのか、この国で3番目に偉い人は。
「ユカタよ。叙爵を受けぬとは言わないでくれよ?」
「こ、断れる訳ないでしょう?」
「謹んでお受け致しますわ」
やっと出た僕の言葉に続いてエリザベス様が受けてしまったが、断れないなら仕方無し。謹んで受ける事にした。
叙爵が決まり、2日後。僕は男爵になった。初めて国王様に謁見したし、この2日間宿でカンヅメにされてみっちり練習した。儀式の練習は当然として言葉遣いや作法を叩き込まれ、僕は心身共に疲れ果ててしまい、甘えてしまった。
「ロシェルゥ、本当に大丈夫なの?僕禿げちゃうよ」
「アタシだって不安だもん。金貨払ったんだから、ダメだったらアタシが困るよぉ」
「自分のお金じゃ無いんでしょ?」
「…やっぱり払って来よっかな…」
「安心なさいませ」「そうだぜ?」
僕はロシェルに甘えてしまったのだ。
30
あなたにおすすめの小説
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集
にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です
再投稿に当たり、加筆修正しています
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -
花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。
魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。
十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。
俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。
モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる