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魔法で、浮いてる
しおりを挟む出発の支度を整えた翌早朝。城門に馬車で乗り付けると帯剣での入門を許された。入ってすぐ、騎竜が並んでるのが見えて男心がくすぐられ、おおーっと声を漏らしてしまった。騎竜は学生の時1度見ただけだが、デカくて飛ぶトカゲが十何匹と並んでいるのだ。感動が漏れてしまうのも仕方の無い事だろう。
「旦那、お里が知れるぜ?」
「村の子でも街の子でも、みんなこんな感じになると思うよ」
「貴殿がウェストモーア男爵か」
ちょっと高めな声がして気を向けると、整列した騎士の真ん中の人の声みたい。隣にはマイケル様も居た。
「貴族的な挨拶口上には慣れてないんだけど、僕がそうだよ」
「男爵殿、こちらは此度の騎乗を取り仕切る、王国騎士団騎竜大隊第三中隊所属、ターク小隊小隊長のターク女史だ。こちらは我が義弟のユカタ・ウェストモーア。隣は妹のエリザベスに、パー家のエヴィナ嬢だ」
僕は知らぬ間にエリザベス様と結婚したらしい。
「紹介に預かりましたユカタの妻、エリザベスと申します。よしなに」
「面倒掛けるね、オレがエヴィナだ。コイツは家のメイドな」
「よろしゅうお頼申します」
挨拶もそこそこ、各々に1人竜騎士が付いて乗り方の説明や注意事項が伝えられる。エリザベス様にはターク隊長が、エヴィナとメイドにも女性竜騎士が付いた。僕の所は男の竜騎士だった。
竜騎士の鎧は軽装で、かつ、風避けのため分厚い革製全身鎧を着用している。革製の全身甲冑は珍しいし、兜も目だけ出てるフルフェイスだ。体型も分からなくなってるし、中身がすり替わってても分からないよなコレ。
「男爵、聞いているか?」
「うんまあ。2人をベルト固定しないのはなんで?」
「元々想定して居らんからだ」
「魔法職背負ったら遠距離攻撃も捗りそうだと思うんだけど」
「魔導士が加速に耐えられん」
なるほど確かに。手数を減らしても機動力を取るって事ね。
「総員、乗られたしっ」
ターク隊長の号令で騎竜する。馬より高い位置からの目線で少し怖いが、鞍に付いてるベルトを締めるとお尻が密着して安心感が生まれる。前に乗る竜騎士は竜の背に直接乗るし、ベルトも無い。腿と鐙だけで体を支えるのは大変だろうな。
「総員、上がれっ」
号令に従って空に上がる。バサバサと翼を動かし空に上がって行くが、これで浮かぶ理由が分からない。
「よ、よく飛べるな…」
「翼で飛んでいる訳では無いからな」
飛行性魔物や浮遊生魔物等は、魔法で浮いたりしてるそうな。
空に上がった4騎は旋回しながらさらに高度を上げる。移動には滑空する事で魔力を温存するのだと竜騎士は言った。高度が十分となったのか、1人が先陣を切って旋回を解くと、それに続けと斜め後ろに付いて飛ぶ。真後ろや上下でなく、斜め後ろなのはなぜなのだろう?
「気流が乱れる。体を倒して密着しろ」
僕に宛てがわれた竜騎士が男性なのはそのためか。とにかく抱き着いて、目が開かない程の風に耐えた。
「風強っ」
「上手く俺の背に隠れろ」
そう言われても頭がキンキンに冷えて来る。横目で隣の騎竜を覗くと、エヴィナも寒くて固まってるみたい。エリザベス様はローブで頭を覆ってる様に見えた。
横目から眼下を覗く。翼の奥には大森林が広がって、この下が魔獣帯である事を思い知らされる。森の木々を超える位置に人型の魔物の青い頭があるからだ。巨木であろう木々を倒しながら進んでいるのか、歩いただろう跡には道のような隙間が出来ていた。
「青くてデカいのが居る…」
「……群れて居らんようだな」
あの青い頭の持ち主は愚鈍と呼ばれていると竜騎士は言う。愚鈍な見た目だが振り下ろされる拳や蹴りを避けるのは訓練を受けた兵士でも難しく、盾で受けよう等とは考えない事だ、と付け加えられた。
「森が開けて来た」
「アレが民と魔物の地の境目だ」
騎竜での移動は1時間も無かったかも知れない。僕はもっと短く感じた。
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