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貴族の、会話
しおりを挟むルメートル様は悪びれもせずにコップの中身を煽る。お毒味しなくて良いのか?
「ん、美味いぞ?ユカタも飲め」
飲みますとも。口に含んだ液体からは、薬草や香草の香りと果物の甘みと酸味が広がり、普段飲んでる果実水とはまるで違う美味しさだ。口の中がシュワシュワパチパチするのは何だ?毒か?
「シュパシュパします」
「うむ。毒であれば一緒に死んでくれ」
「ど、毒等とはとんでもないっ」
王子渾身のギャグは兵士達には受けなかったようだ。僕は苦笑いするしかない。
「旦那に殿下、そりゃあ温泉水の泡ですぜ」「お嬢、お言葉っ」
「公の場でなければ構わん。そうか、これが温泉の泡、か」
身内が毒を仕込んだと疑われ、エヴィナとメイドも割って入る。僕は初めて聞いたし初めて飲んだけど、温泉ってシュパシュパするんだな。
「補足しやすと、温泉水にも飲めるモノと飲めないモノがありやして、今お口にされやしたお飲み物はカルボナート冷泉水を使ったコークと言う物で御座いやす」
飲めない水があるのは僕にも分かる。鳥が落っこちて死んでる所の池とか、飲んだらお腹壊すよね。コークに使う水は泉の湧き出し口から直接採取した物で、有料の水として販売もされてるそうだ。強いお酒を薄めて飲んだり料理に使ったりするのだと。
「皆様お待たせ致しましたっ。馬車が到着致します」
ガラガラと車輪を鳴らして馬車が来るのを兵士の1人が告げると、メイドは乗客を集めた。王子や隊長達は馬車には乗らず、騎竜に乗って歩いてもらうそうだ。門前に置きっ放しじゃお世話出来ないから厩舎に移動させてもらう言うのだが、王子もそんな事するのかと、させても良いのかとメイドに問うと、騎竜は乗り手や世話役にしか心を許さないと返した。確かに、馬もそんな感じだよな。
「お嬢!」「お嬢だっ!お嬢が帰って来たぞ!」
馬車から降りたエヴィナに歓声が上がる。
「男だ!」「お嬢が男ぉ連れて来たぞ!」「殺せっ!」「殺せっ!」「殺せっ!」「殺せっ!」
馬車から降りた僕には殺せコール。全く冗談では無い。
「止めな!旦那はオレの良い人だっ!オレを後家にする気かっ!!」
「私の良い人、です。ねー?」
「野郎!」「爆ぜろ!」「羨ましいっ!」「死ねっ!!」
2人が僕の両腕に絡むと、コールが余計酷くなった。どうやら僕は、歓迎されてないらしい。
「歓迎されているな」「どこがです?」
王子が皮肉を言って背後に立った。貴方様のパレードでこんな事言う人居ましたか?僕はそんな人見てませんよ?
「静まれいっ!静まれいっ!当主様のお成りであるっ!」
怒号を号令がかき消して、中庭に静けさが戻る。玄関から出て来た全身金属鎧の人物から発せられた号令は、僕を殺せと雄叫びを上げていた荒くれ共をその一声で黙らせた。それだけの力がある実力者なのだろう。彼は後ろから来た人物に道を開けると背後に回った。貴族の成りに、白銀の鎧を手脚にまとった姿の男性だ。使用人では無いだろう事は僕にも予想出来る。
「エヴィナよ、遠路ご苦ろ……」
「当主様?」
「ひっ!控えよっ!!皆の者控えるのだ!第1王子ルメートル殿下のお成りであるぞ!?」
僕の後ろに立ってた人に気付いたのか、慌てて駆け寄り平服すると、周りにいた荒くれ共も膝を着いて頭を下げた。急に駆け寄って来たから僕も逃げよ、ではなく控えようとしたのに左右と後ろから掴まれてて逃げられない。王子まで僕を掴むの止めてくれない?
「良き歓待であった。兵の結束も高く、統制も取れている様で何よりである」
「勿体無きお言葉っ」
「この者は私が叙爵したウェストモーア男爵家当主、ユカタ・ウェストモーアである。パー家息女、エヴィナと婚姻を結ぶ者だ」
「こ、婚姻…」
「兄貴、離れの村、使うぜ?」
「……好きに、するが良い」
にわか貴族な僕には全く分からなかったが、どうやら貴族的な話がされているらしい。
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