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言葉は、要らない
しおりを挟む獣人達との会敵の場は村の西となった。エリザベス様の索敵では20人程が2つに分かれ左右に展開し、正面には残る60人程度が僕達と対峙している。そして1人単位の斥候が4人、展開された外側に配置されているそうだ。
「煩くて適わんね」
「矢でも射掛けたらどう?」
獣人特有の示威行為で声も掛けられん。そもそも用があるなら黙らせるだろうし、やる気なのだろう。ロシェルの意見も間違いでは無さそうだ。
「獣人の耳にバレてなきゃ良いけど、準備は出来たよ」
「お疲れ様。魔力は平気?」
「うん。問題ないよ」
「効くかどうかは相手の実力次第だぜ。ダメでも少しは足止めにならあ」
準備が出来たと言ってジュンとハキが戻って来た。ジュンにはいつも頼ってばかりで心苦しいが、もう少し働いてもらわねばならない。
「旦那様、準備整いました」
「ジュンの姉御も良さそうだぜ?」
マキとハキから合図があり、壁の斜面に作られた、土の階段を最上段へ上がる。弓矢での攻撃を警戒しているのだろう、広く間合いを取った位置で、無数の獣人がウォウウォウと鳴いている。草薮と細い木に隠れているようだが上からだとほとんど丸見えだ。本隊が騒ぐ事で分隊や斥候を隠そうとしているのかも知れない。
「虫が跳ねたよ」
ロシェルが背後から囁く。押すなよ?僕落ちちゃうぞ?
「うん。スーーー…うるっさーーーいっ!」
僕の大声にエリザベス様が魔法を乗せる。声を届ける風魔法だ。索敵で場所を把握してるので、7ヶ所全てに声を届けられるそうだ。その証拠に鳴き声が止んだ。
「何しに来た!?またボロカスの負けウォリスになりに来たか!?」
僕の挑発に返事を返そうとした1人が言い掛けて言葉を飲み込んだ。ジュンの土魔法が本隊を壁で囲ったからだ。石壁は薄く、高さも4m程と決して完璧では無いが、相手を怯ませる時間は取れた。そこへ追い打ちを掛けるのはレイナの火球だ。円筒の縁へと飛んで行くと、突然巻き起こる竜巻に混ざり火柱を上げた。
本隊が焼けているのを見ては左右の分隊も隠れてはいられない。密集していてはダメだと悟ったかどちらも散開する策を取ったようだ。しかし敵は声も無く倒れて行く。声を上げても業火の音に掻き消えているのだろう。注意の範囲外から音も無く飛んで来る石に頭を勝ち割られ倒れ込む。避けられる者もいるが、深追いせず数を減らす。本当は、子供に殺しなんて、させたくなかった。
本隊は火炎旋風の中で動けず、2つの分隊は3人に減った。斥候の4人は攻撃が始まると同時になりを潜めたが、ロシェルにより殺された。いつの間に下に降りたのか分からない。それより血だらけで帰って来たのでびっくりした。ここ高さ8mあるんだけど。出入口は閉じてるし、どうやって入ったんだ?
「薬草畑の壁から、トトトーッて」
棘の着いたフェルトの靴は、垂直5mの壁を昇れるらしい。
「それより生き残り、強いね」
「動きを止める隙があれば良いのですが」
ロシェルとエリザベス様が生き残った3人への感想を述べる。ロシェルですらタイマンを回避して帰って来たのだ、相当強いのだろうな。
「ベス、壁の中に生き残りは?」
「全て滞りなく」
「当たらなくても良い、ハキはそのまま2人に牽制を。ベスとジュンは1人を風と石で囲んで」
「牽制って何だよっ」
「痛がらせたり移動の邪魔をしろ。レイナとマキはハキの援護だ」
出来れば言葉での指示はしたくない。耳の良い獣人だと聞こえてしまうかも知れないからだ。そしてそれは事実だろう。ハキのマジックポーチによる死角からの射撃が余裕を持って見切られている。レイナとマキ、3人掛かりでやっと1人を転がしていた。エリザベス様とジュンの複合魔法は広い範囲から徐々に範囲を狭くして追い詰めている。男は首を振り、どう切り抜けようか考えているのだろう。
その首が石に変わる。それだけで相手は死ぬ。
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