【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

もる

文字の大きさ
327 / 385

言葉は、要らない

しおりを挟む


 獣人達との会敵の場は村の西となった。エリザベス様の索敵では20人程が2つに分かれ左右に展開し、正面には残る60人程度が僕達と対峙している。そして1人単位の斥候が4人、展開された外側に配置されているそうだ。

「煩くて適わんね」

「矢でも射掛けたらどう?」

 獣人特有の示威行為で声も掛けられん。そもそも用があるなら黙らせるだろうし、やる気なのだろう。ロシェルの意見も間違いでは無さそうだ。

「獣人の耳にバレてなきゃ良いけど、準備は出来たよ」

「お疲れ様。魔力は平気?」

「うん。問題ないよ」

「効くかどうかは相手の実力次第だぜ。ダメでも少しは足止めにならあ」

 準備が出来たと言ってジュンとハキが戻って来た。ジュンにはいつも頼ってばかりで心苦しいが、もう少し働いてもらわねばならない。

「旦那様、準備整いました」

「ジュンの姉御も良さそうだぜ?」

 マキとハキから合図があり、壁の斜面に作られた、土の階段を最上段へ上がる。弓矢での攻撃を警戒しているのだろう、広く間合いを取った位置で、無数の獣人がウォウウォウと鳴いている。草薮と細い木に隠れているようだが上からだとほとんど丸見えだ。本隊が騒ぐ事で分隊や斥候を隠そうとしているのかも知れない。

「虫が跳ねたよ」

 ロシェルが背後から囁く。押すなよ?僕落ちちゃうぞ?

「うん。スーーー…うるっさーーーいっ!」

 僕の大声にエリザベス様が魔法を乗せる。声を届ける風魔法だ。索敵で場所を把握してるので、7ヶ所全てに声を届けられるそうだ。その証拠に鳴き声が止んだ。

「何しに来た!?またボロカスの負けウォリスになりに来たか!?」

 僕の挑発に返事を返そうとした1人が言い掛けて言葉を飲み込んだ。ジュンの土魔法が本隊を壁で囲ったからだ。石壁は薄く、高さも4m程と決して完璧では無いが、相手を怯ませる時間は取れた。そこへ追い打ちを掛けるのはレイナの火球だ。円筒の縁へと飛んで行くと、突然巻き起こる竜巻に混ざり火柱を上げた。

 本隊が焼けているのを見ては左右の分隊も隠れてはいられない。密集していてはダメだと悟ったかどちらも散開する策を取ったようだ。しかし敵は声も無く倒れて行く。声を上げても業火の音に掻き消えているのだろう。注意の範囲外から音も無く飛んで来る石に頭を勝ち割られ倒れ込む。避けられる者もいるが、深追いせず数を減らす。本当は、子供に殺しなんて、させたくなかった。

 本隊は火炎旋風の中で動けず、2つの分隊は3人に減った。斥候の4人は攻撃が始まると同時になりを潜めたが、ロシェルにより殺された。いつの間に下に降りたのか分からない。それより血だらけで帰って来たのでびっくりした。ここ高さ8mあるんだけど。出入口は閉じてるし、どうやって入ったんだ?

「薬草畑の壁から、トトトーッて」

 棘の着いたフェルトの靴は、垂直5mの壁を昇れるらしい。

「それより生き残り、強いね」

「動きを止める隙があれば良いのですが」

 ロシェルとエリザベス様が生き残った3人への感想を述べる。ロシェルですらタイマンを回避して帰って来たのだ、相当強いのだろうな。

「ベス、壁の中に生き残りは?」

「全て滞りなく」

「当たらなくても良い、ハキはそのまま2人に牽制を。ベスとジュンは1人を風と石で囲んで」

「牽制って何だよっ」

「痛がらせたり移動の邪魔をしろ。レイナとマキはハキの援護だ」

 出来れば言葉での指示はしたくない。耳の良い獣人だと聞こえてしまうかも知れないからだ。そしてそれは事実だろう。ハキのマジックポーチによる死角からの射撃が余裕を持って見切られている。レイナとマキ、3人掛かりでやっと1人を転がしていた。エリザベス様とジュンの複合魔法は広い範囲から徐々に範囲を狭くして追い詰めている。男は首を振り、どう切り抜けようか考えているのだろう。

 その首が石に変わる。それだけで相手は死ぬ。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

俺は何処にでもいる冒険者なのだが、転生者と名乗る馬鹿に遭遇した。俺は最強だ? その程度で最強は無いだろうよ などのファンタジー短編集

にがりの少なかった豆腐
ファンタジー
私が過去に投稿していたファンタジーの短編集です 再投稿に当たり、加筆修正しています

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

魔法物語 - 倒したモンスターの魔法を習得する加護がチートすぎる件について -

花京院 光
ファンタジー
全ての生命が生まれながらにして持つ魔力。 魔力によって作られる魔法は、日常生活を潤し、モンスターの魔の手から地域を守る。 十五歳の誕生日を迎え、魔術師になる夢を叶えるために、俺は魔法都市を目指して旅に出た。 俺は旅の途中で、「討伐したモンスターの魔法を習得する」という反則的な加護を手に入れた……。 モンスターが巣食う剣と魔法の世界で、チート級の能力に慢心しない主人公が、努力を重ねて魔術師を目指す物語です。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

処理中です...