【完結】剣の世界に憧れて上京した村人だけど兵士にも冒険者にもなれませんでした。

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流石、魔獣帯

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 掌程もあるデカいビーを見せてやると言った翌日、果樹園にはビー1匹居なかった。

「なぜだ!?」

「昨日自分で言ってたじゃありやせんか。食事が済んだらどこかに行く、と」

「ああああぁ……」

 売り言葉に買い言葉。考えれば済む話であった。ライラの言葉に膝が崩れそうになる。

「ユカタ~、木の実成ってるよ~」

「おおー」「すげー」「なあ、これ食えんの?」

 ビーはビーの仕事をしたようで、棚を見上げれば枝にはたくさんの実が付いていた。昨日まで花だったのに、流石魔獣帯である。

「食う前に、落ちてるのを拾っちゃってくれ」

「「「はーーい」」」

 馬車に乗った11人に戦車の2人、馬で来たのが2人いて、総勢15人で地面に落ちた実を拾う。ついでに下草を刈払って掃除して、木登り上手な者を棚に上げた。

「細かく揺すって落としてくれ。落ちないようになー」

「「「はーーい」」」

 食い物に関する事にはとにかく返事が良い。木登り上手が木を揺すり、下にいる者が落ちた実を拾っては背嚢へ入れに来る。2段の棚だからそこまでの量ではなかったが、酒樽3つか4つ分は確保出来たのではなかろうか。だが樽を減らそうとする視線を感じ、僕は中身を取りだした。味見は大事だからね。

「グシュ、んまっ、ジュルル」「甘っジャクジャク…」

 1度落ちてるヤツだから皮ごと食べるのはお勧めしないが、皆服で拭いて齧り始めちゃった。ライラははしたない事しない面々に切り分けてる。だからエヴィナは待て。

「酸味と甘味が絶妙ね」

「ガキン頃はもりもり食ってたぜ」

「良い味ですね。これなら酒にもなりやしょう」

「楽しみですね」

「まずは普通に食べようか。村に残った人達にも食べさせてあげたいし」

 住民に食べさせて、残ったのは樽1つ分となった。美味しいから仕方ないね。

 果樹園の木はそれから3日休んで再び花を付けた。5日で3~4樽分の材料が取れるのでツルネ酒より効率が良いが、作りたては甘過ぎるのでもっと寝かせたいとの意見が出た。甘いのが好きな者もいて対立が起きたがたくさん作れるのだから作りたてを飲んで、余った分は寝かせたら良いと取り持った。もちろん生食したい子達もいるので配慮は欠かさない。

「ユカタ、お酒を作る専用の施設を用意なさいな」

 いつまでも厨房で作るのはスペース的に難があり、酒造は料理とは別に、仕事として十分な成果があると義母様は仰る。

「では川沿いにでも建てましょうか。水も使いますし」

「ええ、よしなに」

「それならワシ等が3日で建ててやる!」「エールとツルネ酒と果実酒。それに寝かせた酒じゃな!?」

「それなら蒸留酒を作るのも良いわね。鉄が必要だけど、軍備に回す以外に使えるかしら?」

 蒸留酒。聞いた事がないけど飲兵衛達は知ってるみたい。何やらお酒を温めて、湯気を冷やして何かするそうだ。まあ好きにしたら良いんじゃないかな。そこまでお酒に興味無い僕は簡単に答えてしまった。

 僕の仕事が滞った。毎日の果樹園チェックに5日に1度の収穫日。収穫日以外は壁作りだが、オッサン共が酒造施設を建てるのに忙しくて手伝いに来ない。壁が伸びない。ハキに甘える。見付かって夜寝させてもらえなくなる。眠いまま魔獣帯へ。馬から落ちて怪我をした。

「無理しちゃダメ。あンたがみんなに言ってる言葉よ?」

「果樹園の護衛は必要だもん…」

「私だって戦えるんだから、疲れた時は休みなさいよね」

 魔道砲のセーナに言われては何も返せない。僕の寝るベッドの横にはセーナとエリザベス様がいて、2人の魔法で折れた足を治してくれてる。反対側にはロシェルにエヴィナが座ってニヤニヤしてやがる。僕が骨折ったのがそんなに嬉しいか。

「今夜はアタシがご飯食べさせたげる」

「おいおい抜け駆けか?オレにも女っぽい事させろや」

「学園でお弁当分けてもらった恩は返さなきゃ」

 今それ?そんなの学園にいた頃に返し終わってるよ…。








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