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25 外国人はその場限りの行動をしがち
しおりを挟む《認識阻害》系スキルがレンズやレーダーの目にどう見えるのか、王は知らない。せめてスマホカメラで試しておけばと後悔したが、ここまで来てはどうしようもない。南米エクアドル。首都キトから300km程離れた場所で、父の存在を《察知》する。《遠見》では車が走っているのが見え、ゴブリン共を轢いていた。
─動いてるならまだ無事か。撮影もやってんのだろうか─
場所が分かれば別の移動に切り替えられる。王は緑色に汚れた車を目標に、少しズラして《緊急逃避》を発動した。《緊急逃避》は《移動》系スキルで魔法のように魔力を使わないのが特徴だ。見える範囲との条件はあるが、見えているなら月にも行ける。当然生きてはいられまいが。
日本の反対は昼であり、父の乗る暴走車は道路を逸れて草地を蹂躙の場所と定めていた。
「武器…。木しか無い、か」
王は道から逸れた森の際に降りたが、武器になるような物等早々落ちてはいないので、兼ねてから予定していた木材調達に臨む。枯れた丸太があれば良かったのだが生木しかなく、硬そうな自然木を伐採し、扱いやすいサイズの角材にして暴走車へと向かった。ちなみに木材は手刀で切った。王が格闘をしないのは、偏に魔物が臭いからである。
暴走車から見える場所では魔物の死体を生きた魔物が喰らい、車を襲って返り討ちに遭っていた。餌があるから魔物が集まる。異世界でよく言われるフレーズは、地球でも当て嵌るらしい。
「ギヒッ」「ギギッ」
死んだ魔物に飽きたのか、生きた魔物が王を見て鳴き声を上げる。王にとっては若い頃散々殺した相手、ゴブリンである。ゴブリン以外にもウルフ系がいるが、これは地球のオオカミか?考える間もなく走って来た。
─グレイウルフ、かな?地球にもいるからややこしいな─
地球のグレイウルフは北半球に棲むので南米にはいない。その事に気付くのは日本に帰ってからである。襲って来るなら考えていても仕方が無いので生木の角材を構えて低く飛んだ。
「血が赤いな」
当たり前の話だ。異世界でも野獣と呼ばれる動物は赤い血をしている。緑や紫等の血は魔獣や魔人、魔法生物に多く、ウルフは野獣、ゴブリンは魔獣とされている。王はウルフに手加減し、ゴブリンだけを殺して回った。王も人の子、出来れば赤い血を見たくなかったのだ。
『お前!人間か!?』
車から声が飛ぶ。自分から向かうと撃たれると思い遠巻きに魔物退治をしていると、車がようやく気付いたようで、王の近くへ寄って来た。
─スペイン語か─
『英語を喋るが人間だ!』
敢えて英語で言葉を返す。中に居る者にも聞こえるように。
『純一保内にキングが来たと伝えろ!』
『ホナーイ?ホナーイ!王様ってガキが居るぞ!?』
「キング?王!?Oh……王だって!?」
「様子見に来たよー。父さん生きてるー?」
「王!おまっ何でここに!?」
車から顔を出し、互いに懐かしい顔である事を確認する。方や緑に染まっていたが、間違いなく自分の子であると父は確信した。
「とにかく早く乗れ!逃げるぞ!」
ゴブリンは粗方片付けたが、ウルフはまだ生きている。あまり放置するのは良くないが、たまには親子で話もしたいと王は車にお邪魔した。
「くっせえ!」『臭い!』『獣の臭いじゃない!何だ!?』
『少し待て…』
鼻が麻痺していたのか、乗車すると同時に男共が咆哮する。王は窓を少し開けると、自分の周りに《浄化》を使って汚れを消した。それでも空気中に混ざってしまったり鼻の奥に入ってしまった物は消せない。男達はしばらく嘔吐いていたが、運転手は妙案を思い付いた。
『この車は日本製だ。エアコンがあるじゃないか』
「「あ」」『『あ…』』
阿鼻叫喚再び。散々ゴブリンを轢いていた車のフロントが清浄であるハズが無い。緑色の臭い汁と肉片がこびり付いた外装から、エアコンを通って悪臭が雪崩込んで来るのを誰一人止められる者はいなかった。王さえも、油断していたのだ。
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