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28 10年と、20年
しおりを挟む血が赤いからと言ってウルフに手加減する事が出来なくなった王は、手にしたナイフで4匹の魔物の首を刈り取った。一瞬の早業に大人達は声も出ず、喉を鳴らすだけである。
『背後は特に警戒して』
先頭に王。その後ろに道案内を2人。その後ろに父。そして後方の警戒に2人が着いて坑道に入って行く。《夜目》が利き、《感知》系スキルのある王はライトを持つ男達よりも詳しく坑道内が見えてしまう。見えてしまうだけに、残酷な言葉を吐かねばならなかった。
「…死体を引き上げたいんだけど、15人いける?」
「15人……。How many people are in the tunnel?」
『15人だ。きっと助けを待っている』
『1人で3人を運搬してもらう』
『ミスター、悪い冗談だ』
王は応えず歩き出す。そして敵を斬り、案内される事なく一直線に目的地へと進んで行った。大人達は訳も分からず着いて行くしかない。逸れた先に待つのはモンスターとの戦闘だからだ。武器として斧や鉄パイプ等を所持しているが、飛び道具に慣れ過ぎた男達は不安でしかなく、それすら使えない日本人は何も言えなくなってしまった。目の前で自分の息子が何者かの命を奪う。一体何が息子をそうさせたのか。父の頭の中はソレでいっぱいであった。
『到着した。生存確認をして運び出す』
違法坑道の奥へと進み、行き止まり。先細りで人1人が通れるような場所に彼等は居た。15人が行き止まりに詰め込まれ、何者かによって押し潰されているのを見て、期待を砕かれた男達は感情的になり、声を上げて仲間の死を悼む。
─言わんこっちゃない…─
日本人が冷めているとも言えるが、日本人からして見れば外国人は感情的で楽観的で自己中心的、そして約束を守らない。仲間が死んで悲しむ気持ちは王にもあるが、ココで喚いてミイラ取りがミイラになっては意味が無いとは思わないのだろうか。大人達を冷めた目で見る17歳は、唯一静かに悼む日本人に囁くように告げた。
「父さん、そろそろ」
「……そうだな。Listen up everyone, it's time to go home.」
男達は喚くのを止め、詰め込まれた死体を引っ張り出す。なぜ彼らはこんな目に遭ったのか。それは保存のためだ。死体を詰め込み、石や泥で蓋をする事で保存食として利用する。ゴブリン達の生きる知恵だ。知恵がある魔物がこの鉱山の中に居る。王はソレの位置がこちらへ近付いている事に気付いていた。
『ミスター、良かったら手伝ってくれないか?』
『今からここにモンスターが来る。その後でなら』
「¡Es hora de vengar a nuestros camaradas! ¡Te mataré!」
『待てジョン!』
死体を放って王を押し退け、ジョンは坑道を戻って行く。ウッズは止めたが言って聞くなら自制出来ているだろう。王は諦めた。
「王、もしかして、見殺しにする気か?」
「ダメかな?」
「良くは、ないだろ……」
「はぁ、異文化交流は難しいな」
「そうだな。頼む」
王は異世界で、父はここエクアドルで異文化交流を続けて来た。父は10掛けて溶け込む事に注力し、王は反発をして20年を過ごした。
死体運びを待機させ、王は足手まといを追った。そして程なく、雑魚に囲まれボコボコにされているジョンを発見した。
「動くな雑魚共!」
「ギッ!」「グアッ!」
声を上げて敵の注意を逸らし、動きを止めた所へ魔法で石の槍を落とす。ゴブリン程度であれば狙いを外す事は無い。ジョンを囲んでいた雑魚の命を刈り取ると、足手まといの襟首を掴んで後ろに放り投げた。
『死にたくなければ単独行動をするな!』
「¡No quiero morir!」
英語にスペイン語が帰って来る。あまり懲りてはいないようだ。残りの雑魚を魔法で一気に殺し、闇の中から威圧を纏った存在が現れる。
「ギャァァアッ!!」
敵が来るのを待つ馬鹿も無い。王は敵の足元から《土魔法》の槍を放った。
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