異世界から帰ったのに何かおかしい 〜俺ってそんなにモテてたか?〜

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31 そこまでやるか

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 そして土曜日。夜明け前にも関わらず何台もの黒塗りの車はいつもの公園に違法駐車されていた。

「ご足労ありがとうございます」

「迷惑極まりないよ、本当に」

 初めての襲来から今日までの2日、王はあらゆる手段で監視されていた。常人では見付けられないように擬態させたり遥か上空を飛ぶ機械に市井に紛れたり遠くから覗く人、王はそれ等に気付く毎に排除していたが、おかげで家以外でのは我慢せざるを得なかった。《結界》や《停滞》が機械の目でどう見えるのか不安だったし、下手に力を見せたくなかった。

 礼を取る黒服に文句を返し、車に乗り込む。見た目通りの高級車はドアの閉まる音すら違った。違ったのは黒服の性別もで、王は調べられている事を《予測》した。

「ハニートラップ要員なの?」

「お好きに捉えて頂いて構いません」

 王の左右に女が2人。運転手も女性のようだ。前後を挟む車には男の姿もあったので、これは間違いないだろう。

「人体実験するつもりなら歩いて向かうけど?」

 王は車内に仕掛けられた監視用の機械を《転移》で車外に飛ばす。ダッシュボードやヘッドレストに隠されたカメラやセンサーが消える。黒服のボタンにイヤリングがその場から消えた事で異変に気付くと黒服2人は一瞬体を硬直させた。

「分かってて着けてんだよね?」

「…立場を弁え……」

 言葉が終わる前に女は消えた。もう1人はそれから無駄口を叩かなくなった。

─こりゃ女ですらないな─

 王を前にしてこの態度。元男であると《予測》され、よくよく《感知》してみると、外にも市井に紛れた監視がいるのが分かった。王は余程舐められているのだろうと感じた。

「監視の奴等多過ぎ。あんま馬鹿にすんなよ」

「それは、貴方を護衛するためです」

「嘘乙。消すわ」

 運転手ならちょっと歯向かっても平気だろう。そんな考えが浮かんだのか口を挟む運転手。事実運転手は何かされる事はなかった。しかし王を中心に半径20km内にいたはその場から消えた。隣にいた元男と同じ場所に送られた事は、移動を終えた先で答えた。

 移動した先は県庁。知事室と書かれたドアの部屋には暗幕が張られ、偉い人とそうでない者がどちらかなのかを分からせる趣向が凝らされていた。暗い部屋でも王には《夜目》があり、部屋の中に何人いて、どんな武装をしているか丸分かりである。もちろん外にも目を光らせていた。

「保内王、だな?」

「顔も見せない相手に名乗る名はない」「あっ」

 名を問われ、拒絶する王は無詠唱の光を天井に浮かべた。そこには20人の武装した護衛がいる…ハズだった。しかし長机の向こうに座る男達には王以外確認出来ず、端の1人はキョロキョロと部屋の四隅を見渡した。

「まさか県庁職員全員休みにしたの?土曜だって日直や電話番のバイトがいるだろうに」

 王は敵対勢力の存在を全て移動させたと3人に語る。そこは南米エクアドル。父が働く鉱山の、魔物の残る坑内であった。最初の1人は殺されていなければ生き残っているだろう。だが道路にいた数百人と県庁に居た数十人は狭い一ヶ所に飛ばされる。圧迫に耐えられるのは数人いるかどうかであろう。銃弾の効かない魔物相手に何人が脱出出来るだろうか。それを聞いた3人は、知恵を絞っているようであった。

「許可も得ず出入国したのは浅はかだったけど、しないと父が死んでたから仕方なかった。配信させたのは魔物の殺し方を教えるためだ。後から知ったが南米全土に湧いてるらしいしな。魔物は近からず日本にも湧くから、俺に構わずその時の準備を進めるべきだ。敵対しないなら俺は普通の学生でいる。アメリカ相手の外交カードになんてしないでくれよ?」

 王は部屋を出る。3人は黙って見送るしかなかった。

 《転移》で家に戻った王は、周囲を確認して再び外へ《転移》する。

「久しぶりね、入って」

 呼び鈴を鳴らし、皆崎優子の家へ迎えられ、優子と朝食を頂いた。









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