31 / 61
31 そこまでやるか
しおりを挟むそして土曜日。夜明け前にも関わらず何台もの黒塗りの車はいつもの公園に違法駐車されていた。
「ご足労ありがとうございます」
「迷惑極まりないよ、本当に」
初めての襲来から今日までの2日、王はあらゆる手段で監視されていた。常人では見付けられないように擬態させたり遥か上空を飛ぶ機械に市井に紛れたり遠くから覗く人、王はそれ等に気付く毎に排除していたが、おかげで家以外での行為は我慢せざるを得なかった。《結界》や《停滞》が機械の目でどう見えるのか不安だったし、下手に力を見せたくなかった。
礼を取る黒服に文句を返し、車に乗り込む。見た目通りの高級車はドアの閉まる音すら違った。違ったのは黒服の性別もで、王は調べられている事を《予測》した。
「ハニートラップ要員なの?」
「お好きに捉えて頂いて構いません」
王の左右に女が2人。運転手も女性のようだ。前後を挟む車には男の姿もあったので、これは間違いないだろう。
「人体実験するつもりなら歩いて向かうけど?」
王は車内に仕掛けられた監視用の機械を《転移》で車外に飛ばす。ダッシュボードやヘッドレストに隠されたカメラやセンサーが消える。黒服のボタンにイヤリングがその場から消えた事で異変に気付くと黒服2人は一瞬体を硬直させた。
「分かってて着けてんだよね?」
「…立場を弁え……」
言葉が終わる前に女は消えた。もう1人はそれから無駄口を叩かなくなった。
─こりゃ女ですらないな─
王を前にしてこの態度。元男であると《予測》され、よくよく《感知》してみると、外にも市井に紛れた監視がいるのが分かった。王は余程舐められているのだろうと感じた。
「監視の奴等多過ぎ。あんま馬鹿にすんなよ」
「それは、貴方を護衛するためです」
「嘘乙。消すわ」
運転手ならちょっと歯向かっても平気だろう。そんな考えが浮かんだのか口を挟む運転手。事実運転手は何かされる事はなかった。しかし王を中心に半径20km内にいた護衛はその場から消えた。隣にいた元男と同じ場所に送られた事は、移動を終えた先で答えた。
移動した先は県庁。知事室と書かれたドアの部屋には暗幕が張られ、偉い人とそうでない者がどちらかなのかを分からせる趣向が凝らされていた。暗い部屋でも王には《夜目》があり、部屋の中に何人いて、どんな武装をしているか丸分かりである。もちろん外にも目を光らせていた。
「保内王、だな?」
「顔も見せない相手に名乗る名はない」「あっ」
名を問われ、拒絶する王は無詠唱の光を天井に浮かべた。そこには20人の武装した護衛がいる…ハズだった。しかし長机の向こうに座る男達には王以外確認出来ず、端の1人はキョロキョロと部屋の四隅を見渡した。
「まさか県庁職員全員休みにしたの?土曜だって日直や電話番のバイトがいるだろうに」
王は敵対勢力の存在を全て移動させたと3人に語る。そこは南米エクアドル。父が働く鉱山の、魔物の残る坑内であった。最初の1人は殺されていなければ生き残っているだろう。だが道路にいた数百人と県庁に居た数十人は狭い一ヶ所に飛ばされる。圧迫に耐えられるのは数人いるかどうかであろう。銃弾の効かない魔物相手に何人が脱出出来るだろうか。それを聞いた3人は、知恵を絞っているようであった。
「許可も得ず出入国したのは浅はかだったけど、しないと父が死んでたから仕方なかった。配信させたのは魔物の殺し方を教えるためだ。後から知ったが南米全土に湧いてるらしいしな。魔物は近からず日本にも湧くから、俺に構わずその時の準備を進めるべきだ。敵対しないなら俺は普通の学生でいる。アメリカ相手の外交カードになんてしないでくれよ?」
王は部屋を出る。3人は黙って見送るしかなかった。
《転移》で家に戻った王は、周囲を確認して再び外へ《転移》する。
「久しぶりね、入って」
呼び鈴を鳴らし、皆崎優子の家へ迎えられ、優子と朝食を頂いた。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!
石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。
クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に!
だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。
だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。
※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる