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37 変わり行く日本
しおりを挟む総称がゴブリンと決まった魔物達は、南米同様日本各地の穴と言う穴から発生した。鉱山に洞窟、廃トンネルに下水道。自衛隊がどんなに頑張って働いていても、結界や封印が出来ないのであれば穴の1つ2つ殲滅させてもいずれ再び湧いて出る。そして日本特有の理由で殲滅速度が低下する事案も発生していた。
『ゴブリンが発生してる状況ですよ?放置していれば地権者を含めて被害者が出るかも知れないじゃないですか。それを土地の使用料を取るってどうかしてますよね?なら貴方は自衛隊の代わりにゴブリンと戦えるんですか?私なんて絶対無理ですよ。ご自身が出来ないなら土地の使用料なんてケチ臭い事言ってないで安全を確保してもらうべきではないですか?』『はい。では一旦CMを挟んで……』
朝食を食べている居間にコメンテーターの声がテレビを通してそこにいない地主を煽る。口だけなら何とでも言えるが王もコメンテーターの意見には同意であった。田舎の洞穴でこうなのだ、都会の下水道はもっと酷い。避難指示が出されると何かと補償やら補填をばら撒けと騒ぎ立て、政府の支持率を下げると脅す。ばら撒いたツケが未来の自分達に返って来る事を理解していないのだろう。
─南米の方が素直だな─
「ねえお兄ぃ、家の前が避難指示出たらいくらくらいもらえるのかな?」
「0だな」「何でよ?」
「俺が殺るし、二度と湧かないようにする」
「きんちゃんには、危ない事はしないで欲しいわ」
「危なくはないよ。アレよりは」
アレと言ってテレビを見遣る。CMが明けたスタジオでは、一般が撮影したスマホ動画が流されている。縦長の映像には木刀やバットを持った学生が数人。そしてその奥に映るはテレビ局によりモザイクが掛けられたゴブリンであろう動く物体。『これからショッキングな映像が流れます』とテロップが入り、徒党を組んだ子供達がモザイク相手にギャーギャーと喚きながら鈍器を振るう。
「ご飯食べる時間に流す動画じゃないよぉ」
「その内これを生業にする奴等も出て来るだろうね」
「きんちゃんはそう言う事しないでね?」「私は?」
「する気もないでしょ」
樹里はテレビを消して、まあねと返す。王は母の願いに返事を返さなかった。
─殺らなきゃ人質に取られるんだけど、忘れてるな─
今の所日本での協力はないが、王は南米の治安を守っている。自宅で朝食を食べている今であってもだ。何人もの分体が人の踏み入らぬ土地の穴を殲滅して《対魔結界》を張り、都市部では女を抱いている。父にはあれから会わないようにしているが、ニアミスした回数は10を超えていた。
11月に入り、ゴブリンが自衛隊の手に余るようになると子供達の間に鈍器を持つ事が流行り始めた。もちろん抜き身で持って補導される馬鹿も居るが、球技や武道を嗜んでいたり過去に経験ある者は、携行用の入れ物を背負って外に出た。そして運良く魔物に出会った者は己の力を存分に振るい、弱い者は淘汰され、強い者は魔物を殺し、弱い者を傷付けた。
「何かさ、みんな武器持ってるね…」
「王君あたし怖~い」「王君は武器持たないの?」
「臭いけど手で殺れるし、遊んでもいられないよ。自衛隊も頑張ってるみたいだしね」
駅を出て、通学路。樹里は周りの学生の背中に指された長物を見て呟いた。聞こえた女子は態とらしく怖がって胸を押し付け、他の女子は王の装備を気に掛ける。王は正式な依頼が来るまで日本での協力はしないと決めていたし、相手方にもそう伝えてある。国民の税金を花代にして欲しくなかったのだ。
「お前さあ、武器も持たねーで女ぁ守ってるつもりかよ」
「俺等ゴブリン10匹は殺ってんぜ?」「そんなのより俺達と行こーぜ?」
─僻みか…─
女子の群れを掻き分けて、態々王にケンカを売りに来たのは背中の得物が原因か。
「はあ?あンた達より王君の方が良いに決まってんじゃん」「王く~ん暴力振られた~」
口で女に敵う訳がない。
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