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52 オートクチュール
しおりを挟むセヴェンヌ国立公園はジェクスから300km程離れていて、農村と豊かな自然の広がる場所である。すっかりトレッキングカジュアルに身を包んだジャンヌはバタフライナイフをチャキチャキさせながら王に同行を迫る。
「…………」
─何か言えよ…─
『危ないからしまいなさい。それに、ナイフで戦うなら、相手がナイフを恐れなければならない』
王は折れて言葉を送る。
『武器を怖がらない人なんていないわ』
『相手は人じゃない。動物はナイフを怖がらない』
『ならどうやって戦うのよ!?』
『鈍器で殴る。テンプル騎士団みたいにね』
『お母さん!鎧無い!?メイスは!?』
『家は騎士家系じゃないわよ』
─ある家にはあるのか─
母方の祖父の家に行けばフレイルがあると言うが、きっとそれは殻竿だろう。移動もあるし、今日は同行を諦めてもらった。
『そんなナイフじゃ本当に役に立たないから置いて行きなよ?』
代わりに武器を用意する事になってしまった。夕方までは暇なので、連れて来られたのはスーパージェクスに併設された建材店ジェクスである。
『デートよね?』
『デートの準備だよ』
腕に組み付かれた王は店内を巡り、テープや鉄棒、木材をカートに収めて買い物を終える。だがまだデートは終わらない。母親にもお使いを頼まれているのだ。当然向かうはスーパージェクス。カートを押してジャンヌの入れる商品を品定めしては返して行った。
─可愛さ以外、樹里と似てるな─
顔も背丈も歳も違うが、動きは愚妹のそれであり、王がこの娘を目で追ってしまうのは仕方のない事であった。
『どうしてウサギを返すのよ!』
『ウサギは豚じゃないからだよ』
食用に飼育されているとは言え、ウサギはちょっとと思う王である。しかも高い。
昼食にバーガーを食べるのは中二フランス女子のマストだと言われ、道路を挟んだバーガーナインジェクスへ。薄皮にみっちり包み込まれたタコスや変な形のパンに挟まれたサンドウィッチ、テクスメクスが売られている。
─飲み物は缶ジュースか…。サンドウィッチデカいな─
『頼んであげる。何が良い?』
王は気になっていたサンドウィッチのスペシャルと赤い缶ジュースを、ジャンヌは何やらバーガーと、ポテトのセットを頼んだ。金は当然王が出す。
『ポテト多くね?』
『ドリンクとセットで2€なの。お得よね?食べないなら私が食べてあげるわ』
赤い缶ジュースをポテトセットで頼んだらしい。2€は360円程と考えると、日本の物価はまだ安い方なのかも知れない。
─ポテトは多め、か─
明日は思い切り運動してもらおう。ちなみに赤い缶ジュースは日本でもお馴染みのコーラであった。が、日本の物と少し味が違う気がした。
ジャンヌの家に戻るとベランダを借りて装備を作る。背中に伸し掛るジャンヌは王のスキルを目の当たりにする事となる。
『ロワ、貴方やっぱり魔法使いなのね!?』
『魔法も使っているよ』
木材や鉄棒をまるで粘土のように素手で曲げ伸ばしたり出来る地球人は王以外にはいない。これは《鍛冶》スキルの中の《錬成》を応用した物で、本来は凹んだ鎧を戻したり、折れた剣をくっ付けたりするために使われる一時凌ぎのスキルではあるが、使う者が素人ならばこの程度でも十分である。
『持ってみてくれ』
『メイスね?剣じゃないの?』
『重くて危ない。それに街中で振り回したら捕まるだろ』
『振り回すのは明日でしょ?』
『なら今すぐ振り回すのをやめなさい』
持たせた瞬間から振り回し出したジャンヌを諌めるが、広い所でやれば良いでしょと家を出て行ってしまった。ジェクスではまだ武器を持った人を見ていないので、お巡りさんに捕まらない事を祈る王であった。
王は続けて防具作りに着手する。南米産魔物皮革を《錬成》で鞣し、ジャンヌの分体をマネキンにして毛皮のローブとミトン、グリーブ、ハットを拵えた。オシャレの国の女子にどう映るかは分からないが、とにかく防御力は高まった。
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