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5 自動発動するスキル
しおりを挟む母が、コンドームを買って来た。夕飯の買い出しに出掛けて、コンドームを買って来た。4箱も買って来た。夕飯の材料に囲まれて積み上がりキラキラと輝く姿に母のやる気が感じられた。
「明日届くって、言ってたよね?」
「だって、我慢出来ないんだもの」「私だって、早く初めてシたいもん」
資本主義社会では多数決が採用される事が多い。少数派の否定は蔑ろにされ、嫌な事でもしなければならない。それが法に反する事であっても。
「とにかく夕飯とお風呂。後俺の勉強が終わってからねっ」
王は帰宅してから全く勉強をさせてもらえなかった。母が買い物に出掛けた後も妹の樹里に王子を舐られ、自慰を見せ付けられたからだ。王は耐えた。耐えたが、17歳。互いに口で慰め合ってしまった。妹の口で腰を振ってしまうのも仕方の無い事だろう。
王は自室で勉強に励む。妹は珍しく風呂を掃除し、母はキッチンに篭った。新しい参考書が買えなかったため復習する事に時間を割いたが、20年も昔に学んだ事がスルスルと解ける。
─おかしい…。少しくらいは、いや完全に忘れてると思ったが、覚えてる?いやこれ覚えてるのか?─
王はスマホを起動して、適当に未修の問題を検索すると、天を仰いだ。
「うわぁ…」
─解けちゃうじゃん!解法までバッチリ!暗算で解ける問題じゃねーっつーの!!─
スキルは使ってない…ハズだ。だがアクティブスキルは、技能スキルは…と考えている内に答えに辿り着く。技能スキル《計算》《知識》《記憶》《言語》更には《予測》辺りも悪さをしている事に気付いた。《計算》に於いては見た計算式であれば解法から答えを表せるし、《知識》に於いては王が学んだり経験した事を全て《記憶》している。最も悪いのは《言語》で、王が知らない言語ですら文字と言葉に表せてしまった。
「Quiero encontrarme y hablar con Dios...」
─スペイン語もサラサラのペラペラ…明日からエクアドルに住めちゃうよ…─
エクアドルは疎か、南米の至る所に行けるのだが、王はそれ所ではなかった。理科・公民・地理歴史に情報。この辺りの知識を詰め込むだけで殆どの大学にも入れてしまうようになってしまったのだ。
─実技と小論文さえなければどこにでも行けるな。まあ実技のある大学は多くないが…─
スマホを弄り、小論文を検索する。
─理解出来てしまった…─
王はスマホの電源を落とすと勉強に没頭した。どれだけスキルがチートであろうと勉強は勉強だから。いずれ出会うクラスメイトに、どの参考書を使ったかとか、どうやって勉強したかを聞かれても困らないように、王は勉強する事にした。
─あ、これ《予測》発動してるな─
「お兄ぃ、ご飯」
部屋の向こうで妹の声が聞こえる。時刻は18時を回っていた。3時間程だが集中していたようで、ほぼ新品であったノートは残り数枚になっていた。スキル《集中》の成果である。
現代に戻って2度目の食事はカレーライスであった。自室のドアを開けた瞬間から口腔内に期待と言う名の唾液が溢れ、抱き着く妹を引き摺って階段を降りた。
「カレー…、カレーだ…」「お兄ぃ、カレーの匂いで勃起してるの?」
スパイスの香りが性腺刺激ホルモンに作用して…等と言う事は無いだろう。だが王は溢れる唾液を飲み込みながら勃起していた。昨日までの20年間、得る事の出来なかった香りの爆弾に、脳が食欲と性欲を取り違えたのかもしれない。
「2人共、手を洗ったら配膳手伝いなさい」
「はーい」「お、おう…」
妹がシンクで手を洗うのに続き、王も倣う。妹が出しっ放しにした水で手を洗い、コックを閉めた。
「ちょ、母さん?」
「おはぁはん、おはんうふったお」
正しい発音が聞き取れない母の口は、王のコックを納めていた。《言語》によると、母は夕飯を作ったと言っている。食事を作ったご褒美でも欲しいのだろうと、王は《予測》した。
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