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2 王国から帝国へ
契約の不履行
しおりを挟む「そう言えば名乗りが遅れたな。俺はアウディーだ」
女は名をシャレンと言った。向こうから近付いて来るのだから余程アウディーの事が知りたいのだろう。だが周りに他の冒険者達の耳がある。あまり詳しい話はしたくない。
「あの、地下六階層以降の事を教えてもらって良いですか?」
─……自意識過剰だったか─
アウディーは自身の傲慢さを恥じる。彼女達、いや、地下五階層を踏破していない者は総じて地下六階層以降の情報を持ち得ていないのだ。『雷撃の剣』や『古龍の血』であっても最下層である地下十階層は未到達と聞く。それに階層の情報は自分達の財布に直結するのだから、金の出る依頼でもなければギルマス相手でも口を割る事は無いのだ。
「どうせこれから知る事になるのだし、まあ良いか」「良くねーよ!」
「耳聰いな。何故だ?」
二人の会話に割って入ったのはやはり『雷撃の剣』の代表である。男が言うに、地下四階層までしか行けない冒険者達はこの場に待機させるとの事。露払い達は少しモゴモゴしていたが指示に従う決断を下した。ギガンテスハードウォリアーを倒せない自分達が同行して、上位パーティーがこれより下層で戦闘不能に陥った場合、自分達の死は免れないからだ。
「言い分は解ったが、モンスターハウスの破壊はどうするのだ?」
「ンなモンお前なんぞに言われなくても俺達だけでやれらぁ」
地下二階層で破壊出来たから魔道士ギルドの支援を断れるとの判断だろう。
─やれると言うなら責任は持てんな─
「ならば雑魚でも狩ってのんびりさせてもらおうか」
「減らず口を…」
上位パーティーは休憩を終えるとボス部屋の中へ消えて行く。『古龍の血』の代表はずっと口を閉ざしたままであったがチラリとアウディーを見て扉を潜った。
─己の死を悟ったか─
冷静な者が必ずしも指示役にはなり得ない。時に強権振り翳す者の声の方が部下の耳には入りやすいのだ。扉が閉められ静寂が訪れると、誰ともなく愚痴が漏れる。
「誰か時間を計れないか?10p程したら扉を開けてやろうじゃないか」
「そりゃあ面白ぇ」「面白ぇが、10pそこらじゃ殺れてねぇだろ」「俺等まで巻き添え食らっちまうぜ」
アウディーの提案に露払い達が返す。上位パーティーが2組もいて、無駄な時間を掛けているのでは更に下層での戦いが思いやられる。嫌味を兼ねて応援でもしてやろうと思っていたアウディーであったが露払い達の返答はどんどんネガティブになって行き、ボスを倒した後で自分達が怒られる、等とボヤく始末。溜息を吐いてしまうのも仕方ない事だろう。
「わ、私行きたいですっ」「我々はそのために同行したのだ。下層を見ずに帰れるかっ」
魔道士ギルドの面々は冒険者ギルドと契約の上で参加しており、上位パーティーの、特に『雷撃の剣』が発起となるほぼ独断での決定に苦虫を噛み潰していたそうだ。魔法は撃てても討伐経験の少ない彼等には、生粋の冒険者とケンカ出来る者はいないのだ。
「じゃあ途中まで降りてやろう。奴等がちゃんと仕事してるか見届けねばならんしな」
アウディーは同行者を募る。魔道士ギルドは当然の権利として全員が同行に名乗り出た。シャンクは面白そうだと言って、シャルマンは回復は必要でしょ、と。そしてリュカオーンは女性が名乗りを上げるならば仕方あるまい、と言い訳がましい言葉を吐いて名乗りを上げた。
「無理はしなくて構わないぞ?」
「私が無理にならないようにしてくれ」
─素直な事は良い事だ─
前衛の2人にはシャルマンと魔道士ギルドの護衛を頼み、アウディー自身は最前線での露払いを買って出る。
「私達も援護くらいは出来ますので」「魔法でぶっ飛ばしてくれるぞ」「弾は補助済みです!」
ヤル気満々な魔道士ギルドの面々であったが、彼等のヤル気は討ち漏らしのモンスターハウスを破壊するため温存してもらった。
「帰ったら生還を祝おう」
誰が金を出すかで少し揉めた。
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