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2 王国から帝国へ
宝箱の秘密
しおりを挟むドロップされた宝箱は触らない方が良い。そもそも我々が勝ち取った宝ではないからだが、それだけでは無い。箱の中身が変わってしまうとリュカオーンは発した。
「冒険者殿、よくご存知で」
「詳しく教えろ。何で中身が変わるんだ?」
「そちらの冒険者殿は学びが足りませんな」
魔道士が言うに、触れた者、開けた者の肉体及び精神Lvによって中身のグレードが変わるそうだ。アウディーも魔道士の男の説明を聞き、初耳であったと感心した。移動や罠の確認等で複数人が触れると、中身もそれを平均した数値の物になると饒舌な言葉は続いた。
「精神、肉体共に高くあらねば良い物は出ないと言う事、か」
「理想はそうですな」
─どうせ俺の物にはならんし、触れぬのが吉だろう─
魔石だけを持って傷んだ者の元へ戻り、箱の報告をする。広いが離れてはいないので饒舌な説明は聞こえていたみたいだ。休憩がてら、誰が開けるか問答が始まった。が、皆具体的に自分のLv合計を言わない。二組の代表がこれくらい、とするだけである。
「魔道士ギルドにこれを超える者はいるか?」
「ワシが開けたらアーティファクトになるが、金にはならんぞ?」
─なんと…─
口には出さなかったが、アウディーは大いに驚いた。魔道士の年寄りは上位パーティーが示した肉体と精神のLv合計を超えていると言うのだ。数値にして91。魔道士は肉体Lvを上げる暇があるなら魔法を学ぶ生き物なので、その殆どが精神Lvであると予想すると、年齢以上に精神修行を積んでいる事が窺えた。この年寄り、魔法Lvによっては賢者と呼ばれて差し支えない。
「魔道士ギルドはこんな高Lvの者を決死隊に参加させたのか」
「アウディーさん、実は…」
この年寄りがギルドマスターであるとのシャレンの言葉に、魔法を嗜む冒険者は揃って驚きの声を上げた。魔法を使う冒険者は魔道士ギルドにも顔を出すが、ギルマスとの面識等ある訳がない。ではアウディーが冒険者ギルドで見た者は?聞くとサブマスターではなかろうかと返って来た。
「ワシだって戦わねばならんじゃろ。体を作っておったんじゃ」
年寄りの体作りと聞いて皆首を傾げたが、動かぬ体を動かすため、年寄りにも色々あるのだろう。魔道士ギルドの面々はギルマスの事を知っていた。知っていて、敢えて正体を口にしなかったのは余計な負担を負わせたくなかったからだと言う。
─下手に頼られても困る、か。確かに─
「アーティファクトじゃ、ダメだな」
「お召し上げでは報われん」
箱は『雷撃の剣』のメンバー、魔法使いのマックレンが開ける事になった。Lv合計53。この年寄りがどれだけ凄いか分かる。
─俺が触れたら大変な事になっていたな─
Lv合計91でアーティファクトが出ると言う。アウディーはアーティファクトなる物を見た事がなかったが、Lv合計4121の自身が触れた場合の事を考えて鳥肌が立つ。以前倒した時は魔石しか見付けられなかったが、出なくて良かったと感じた。
「ご老体、学が足りずお恥ずかしいが、アーティファクトとは一体どのような宝であろうか」
「ん。宝であり、ガラクタであり、ワシ等にとっては教材じゃよ、お若いの」
ダンジョンで得られる魔道具の事をアーティファクトと呼ぶそうで、その中でも有用度が高い物はレリックと呼ばれ、『古龍』代表の言葉通り、物によっては国に召し上げられると教わる。そうでないアーティファクトも色々な要因で買取り不可になる場合があるため、複数パーティーでこのような物が出てしまうと面倒なのだそうだ。
「マック、金目の物を狙えよ?」
「それは…まあ祈りますが…」
『雷撃の剣』所属の魔法使いマックレンが箱を開ける。鍵は無いが、罠のある可能性はあり、皆広く間合いを取って見守った。
「金、金金金…」
─嵩張るが、一番文句が出ない、か─
目を閉じて呟き、箱の扉が開かれた。
「中身は何だ!?」
「見えません!」
─そりゃあなあ…─
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