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2 王国から帝国へ
可愛がられたいならそう言う所を改善しろ!
しおりを挟む地下六階層。順調に魔物を減らしていた上位パーティー達であったが、徐々に殲滅速度が落ちて行く。疲労である。失血、異物と並ぶ回復魔法で改善出来ないモノの1つである疲労は前衛達の動きと判断力を鈍らせた。
「そろそろ出番じゃの、お若いの」
「どうします?残しますか?」
「皆十分に戦った。ここまでじゃろ」
「では、その様に」
生徒達に釣られて丁寧な言葉になっているアウディーは、先生に確認を取った上で階層に群れている魔物を全て魔石に変えた。正確には魔石以外を減らした。魔石しか残らないのでアイテム等のドロップはないが、【恩恵】への指示が面倒になるので指示を変えられる事は秘密にした。聞かれても答えないつもりである。
「はぁ、はぁ…世話に、なるな」「……なりたかねーがな」
「休むか?」
「ここでか?」「ンな事してたらまた湧きやがるだろうが」
「ならば水でも飲み飲み行こうか。露払いは俺が出る」
上位パーティー達は皆疲労により肩で息をするような状態であったが、この場での休憩より階層の攻略を優先した。『雷撃の剣』の代表が言う通り、地下六階層に出てすぐの場所で休んでいたらその時間で敵が湧いてしまう。魔道士ギルドの面々に疲れた者を介護させながら魔石の散らばる通路を進む。先生の講義に対する返事も若干覇気が減ったようであった。
露払いを任されたアウディーは再び発生する敵を屠りながらモンスターハウスへ皆を導き壊してもらい、下階への階段までの間一人で先導を務めた。
「お若いの、聞いてた事を答えてみい」
「え?消費型は…消耗型と蓄積型。前者はポーションやスクロール等使い切りの物。後者は魔石や魔力付与で使用回数を増やせる物、です」
「うむ。では魔石はどっちじゃ」
「両方です」
「お主、やはり聡いの」
アウディーは元貴族。ある程度の学は修めている。前から知っていた知識もあれば、背後で行われていた講義で得た知識もある。彼は移動中、講義を聞かされながらの警戒を続け、下階への階段前で復習をさせられた。生徒になったつもりは無いが、移動中、突然の質問に答えられず恥をかいた彼は、警戒中であっても講義に集中を割いた。先生も先生で、一番聞いてなさそうな彼が答えるのを見て楽しくなったのだろう。戦闘時以外を狙っては意表を突いて問うて来た。
「体より頭が疲れるな…」
彼がボヤくもの仕方の無い事である。
「みんな疲れてますよー」「干し肉咥えて寝るが良い」「可愛がられやがって、畜生め」
「お前の方が可愛いよ…」「止めろ馬鹿っ」
男相手に馬鹿な言葉を吐いてしまうアウディーであった。
─俺から、疲れを減らせ─
『アウディーから、肉体的疲労を減らしました。アウディーから、精神的疲労を減らしました』
「うっ」
─毎度思うが、コレ、後で反動が来そうに感じるんだよな─
他の者と違い、アウディーには【恩恵】がある。女達との逢瀬の中で幾度となく疲れや眠気を減らして来たが、使う度に反動が来るかもと言う恐怖に襲われる。実際に反動が来るのは眠気だけだが、それくらい彼は元気を取り戻した。
「若モンは元気が有り余っとるようじゃの」
─!?気付かれる素振りは見せなかったハズだが?─
干し肉を咥えて脱力していたアウディーに、元気そうだと近付く年寄り。まさか何かが見えているのかと疑問視するが、他人に秘密を聞くのはマナーに反する。
「先生もお元気そうで」
「ワシももう歳でのぉ、体が言う事聞かんのじゃ…」
チラッ
─何をさせたいと言うのか!?─
「な、何をさせたいのでしょうか?」
「そうさのぉ、タダで教えを説いておる訳じゃし?肩くらい揉んでくれてもええんじゃよ?」
─頼んでないがな!─
「女性にでも頼んでください」
力が足りないそうだ。歳を取ると体が硬直すると言うし、女性の力では太刀打ち出来ないのだろう。可愛がられたいと言っていた生徒達は自分に矛先が向かないようシラを切っていた。
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