±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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2 王国から帝国へ

危うく命を落とす所であった

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「では、お体に触りますよ」

「死なん程度にの」

─人前で殺れるかっ─

 心でボヤくアウディーは、父にもした事のない事をやらされる。うつ伏せ寝の先生に対するマッサージだ。女性相手なら是非にとなるが、相手は男で年寄りである。

「二度としたくないのでしっかり施術して差し上げましょう」

「そんな事言うと癖になってしまうぞぃ」

─この男から、疲れを減らせ。この男から年齢により発生する痛みを減らせ。この男から、年齢により発生する痛みの原因を減らせ─

『スコンブロ・アラグリーラから、肉体的疲労を減らしました。スコンブロ・アラグリーラから、関節の痛みを減らしました。スコンブロ・アラグリーラから、筋肉の痛みを減らしました。スコンブロ・アラグリーラから、年齢を減らします。指定の無い場合、スコンブロ・アラグリーラは消滅します。減少値を指定してください』

─危ねっ─

「……何をしよった」

「危うく殺しかけましたよ」

「ふむ。人は今際の際に気持ち良くなると言うしの。で?何をしよった」

「冒険者の秘密です」

 魔道士は、秘密と聞いたら解き明かしたくなる生き物であり、アウディーの一言は火に油を注ぐ結果となってしまった。そしてこのやり取りは地下九階層までの間、彼の寝起きに必ず行われる事になる。彼が平常でいられたのは【恩恵原因】の賜物であった。



 地下十階層。ボス部屋前で最後の休憩が終わる。地下六階層から九階層までの殆どの階層をアウディーの【恩恵】で進んで来た決死隊は体力も魔力も十分な状態でボスに挑む事が出来る。

「ここはお前の力は使わんからなっ」

「危険が迫ったら頼むぞ?」

 愚痴程度に減っていた『雷撃の剣』の代表がアウディーを名指しして戦力外通告を発する。だが『古龍の血』の代表は冷静な判断。これにより両者の睨み合いが発生した。

「アウディーよ。お主はどうしたい」

「ドラゴンなんて倒そうとは思いませんが、ダンジョンフィーバーを抑えるためであれば仕方無いですね。取り敢えず皆には頑張ってもらい、ダメそうなら横槍を入れようかと」

「だ、そうじゃ。どうじゃ?」

「……やらせねーよ」「横槍が入らぬようにせねばな」

─遣り合うなら外の方が良いしな─

 アウディーの考えは初志貫徹。こちら有利な狭い部屋で戦っても面白くないと思っていたので敢えて後詰に回る事にした。それに地下五階層のボスに苦戦する者等に最下層のボス討伐は務まらん。ならば経験だけでも得て帰ってもらおうと考えた。

「じゃあ、行くぜ?」「うむ」

「皆、支援掛けい」「「「はい、先生!」」」

 支援魔法が唱えられ、ボス部屋の扉が開かれる。我先にと入って行く前衛達は、中に鎮座する巨体に心を揺さぶられた。

「なっ!?」「デカいな…」

「盾!合流すっぞ!」「赤いから、土か風魔法!」「裏に回る!逆誰か!?」

 部下達が戦意を落とさなかったのは慢心でしかない。部屋には首を上げて決死隊を見下ろす赤い山。うつ伏せのドラゴンが威嚇の声を上げる。代表の2人は少しだけ弱音を吐くと、自らを奮い立たせて戦線に立った。魔道士ギルドとアウディーは後方支援となり、人には広い部屋の端へと向かう。

「見物じゃな」

「本当は付かず離れずの場所にいたいのですがね」

「あの、私達はどうすれば…」

「気取られんよう障壁の準備でもしとれ。で、お主ならどう倒す」

「普通に剣で倒しますよ?予備も拾えましたし」

「何じゃ、いつのもアレは使わんのかぃ」

「勿体無いですからね」

 先生とアウディーはまるで芝居でも観るかのように声を交わす。が、魔道士達は気が気ではない。先生の言葉に従い障壁の準備を進めて行くが、ドラゴンのブレスは鉄をも溶かすと言う。無理だ、とアウディーは考えた。

「皆、ブレスが来る前に水を飲ませてやれ」

「そ、そうですねっ!」「一点に集中すれば嵩を増やせる」「密度を増やせれば…圧力で…技量差が…」

「なるようになるじゃろ」









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