±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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2 王国から帝国へ

一言の力

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 上位パーティーとドラゴンの戦いは、何とも言えない光景であった。ブレスも吐かず、尻尾をちょっと振り回すだけで人がポイポイ飛ばされて行く様はまるで子供と大人。手加減と言うより完全に舐められ切っていた。冒険者達に甚大な被害が出なかったのは、見物人として後方待機であった魔道士達のの成果である。

「密度を増すのに少し手間が掛かったが、なるほど」「面白いですねっ、これなら魔法が苦手な私にでも出来ますよっ」「何より魔力を殆ど使わんのが良いな。左行くぞ、エアロッ」

 魔道士達は、《基礎魔法》の風生成エアロを高密度の塊にして放出し、冒険者を包む、ないしは前後で挟む。近付くハエを払うかの様なドラゴンの尾振りへの対抗策は、冒険者の命を守るのに絶大な効果を上げていた。地下五階層でアウディーが見せた《基礎魔法》の応用を更に応用して使える技術に昇華させるのは流石学者肌と言った所だ。その代わりポンポン吹っ飛ばされているが、命があるだけ十分お釣りが出る。

奴さやっこ んが本気を出さん内に、殺ってしまいたいんじゃがのぅ」

「コチラは今が一番の本気ですよ。お手上げですね」

 先生の言葉に返事をするアウディー。もちろん彼が出れば帰れるのだが、上位パーティーが中々音を上げないので見物するしかない。真面な怪我をしなくしている《基礎魔法》は、便利ではあるが厄介であるとも感じていた。

「主等ぁ、そろそろ退かんかーっ!」

「まだっ!やれるっ!!」「急所を狙え!目だっ!」

 疲れてはいるのだろう。だが怪我人も死人も出ていない以上退くに退けないようで、冒険者達はドラゴンに打撃を続けた。

「解らんモンじゃの。…もうええ、目に物見せてやれぃ」

「折角なので剣で行きます。皆は冒険者の防御に専念してくれ」

「分かったっ」「言われなくともやっているっ」「予備動作中に…止めてしまえば…」「此奴、呟いてるだけで何もしとらんな」

 アウディーはドラゴンへと近寄って行く。

「グロロロロ…」

─…見ているな─

 目が合った気がした。相手は確実にアウディーを見ていた。ドラゴンはアウディーが寄って来るのを見て、勢い良く立ち上がり両腕と両翼を広げた。

「ギャァァアアアアッ!!」

「うわっ!」「ギャッ!」「ヒギッ」

 威嚇の咆哮。そして放たれる魔力に冒険者達は吹き飛ばされ、軽い者は部屋の端まで飛んで行く。普通であれば即死であろう。

「ダンジョンの魔物に知恵があるのか分からんが、ありがたい事をしてくれる」

「ブレスじゃ!」

 ドラゴンの顔がアウディーを見下す様に上を向くと、先生の叫び声が聞こえた。

「確かに」

 アウディーは呟いて、防御手段に出た。ドラゴンの口元に、目に見える程の濃い魔力が溜まって行く。そしてブレスが地面に吐かれようとする瞬間、《基礎魔法》の土生成クレイを地面から生やし、ドラゴンの顎下まで伸ばした。

 《基礎魔法》とは言えLv100で硬化させた石柱は、ドラゴンの力であっても砕ける事なく魔物の口を閉ざす事に成功する。吐き続けられるブレスはドラゴンの口を焼き、潰されて平たくなった何本もの魔力の塊が遠くの壁を焼き溶かした。魔道士達の防御では敵わなかった事だろう。

─物語では自己再生すると聞いたが、これは痛そうだ…─

 ドラゴンの顔は、自身の魔力で焼き爛れ、顎は無く、頭蓋骨が露出する惨状であった。視覚や聴覚、ついでに嗅覚も失っていると予想される。

 アウディーは素早く走る。傍目には飛んでいる様な一歩でドラゴンの首元に飛び込むと、剣を横薙ぎにして振り抜いた。背後に着地してもう一度。アウディーの着地と同時にドラゴンの首が落ちた。

「おおお!」「野郎ッ殺りやがった!」「勝った!勝ったぞっ!!」

「アウディーさん!お見事ですっ」「殺った…か…」

「剣は…、これまでか」

 外野から歓喜の声が上がる中、アウディーは利き手に持たれた剣の柄を見下ろした。









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