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2 王国から帝国へ
まともじゃない
しおりを挟むたったの一撃。それだけで剣の身は大きく削れて罅も入り、反対側はキレイな両刃剣であったが二発目を撃つのは躊躇う程になっていた。ちなみに最初の一撃は斬ってすぐに砕け、これはドロップで得ていた予備である。どちらの剣も、ドラゴンと戦うには役不足であったようだ。
「ドラゴンが消滅します!」
誰かの言葉にアウディーは大きく息を吐く。だがその目はずっとドラゴンを見詰めていた。名残惜しいのではない。完全に消えるまでが戦闘なのだ。やがてドラゴンの姿が無くなると、怪我のない者はドロップ探しに出た。今回の探索でアウディーは初めて知った事だが、この階層のドラゴンや地下五階層のギガンテスハードウォーリアーは階層主と呼ばれ、倒した時に出現する宝箱は部屋のどこかに現れると言う。前回の地下五階層で宝箱を得られなかったのはこのためであった。
「クッソ…俺等じゃダメなのかよ…」「文字通り、全く歯が立たん有様だったな」
ドロップを探しに出ると、上位パーティーの代表が愚痴を零すのが聞こえる。地下五階層がやっとなのだから当然の話だ。怪我程度で済んで喜ぶべきだろう。
「魔石取って来たぞぃ」
「ありがたいですが、若い者に任せてください」
「お主のお陰で元気なモンでの」
意味ありげな表情がイラッとさせる先生に、アウディーはギルドの女性職員よろしく、良い男がすべきでは無い顔で応えた。
「先生!箱を発見しました!」「先生っ」「「先生!」」
誰かが箱を見付けたと言う報告に、生徒達のコールが上がる。
─ドラゴンから出た宝箱だ。そりゃあ良い物出したいだろうな─
だが金にならなければ話のタネにしかならないのも事実。お召し上げすれば第二王子も喜ぶだろうが冒険者には銅貨1枚にもならないのだ。生徒達には自重して欲しいと思ったが、魔法使いの生徒までコールに参加していた。両パーティーの代表は?と目をやるが、休むのに手一杯の様子である。
「おいアウディーよ。お主開けてみぃ」
「は?」
「お主がトドメたんじゃ。好きなモン出せい」
この年寄り、ろくな事を言わない。若しくは分かった上で言っているのか。ドラゴンを殺った時点で自分より肉体+精神Lvが高いと踏んだのだろう。先生の言い分に生徒達も納得してしまった。
「好きにしやがれっ」「我々よりは良い物が出るだろう」
─このっ、もっと噛み付いて来いよっ!─
疲れて諦めた2人のお墨付きもあり、アウディーは宝箱の元へ連行された。彼もまた、諦めていた。
「金にならん物をお臥せなられておられる皇帝陛下に押し付けるのも気が引けるのだが…」
「良いから開けんか。何故その様な事を知っとるのかは後で聞いてやるがな」
知り合いだから、と言っても俄には信じまい。完全に諦めたアウディーは野次馬に取り囲まれる中、宝箱に手を掛けた。
「……金にはならなそうだが、真面な物には見える」
罠は無く、中身を見て、持ち上げる。それは見た目地味な装飾の本で、ある程度学のあるアウディーでも真面な物に見えた。
「アウディー、開くな」「呪いが掛かっている可能性があります!」
─珍しく慌てているな。良い物だったのか?─
今までと全く違った雰囲気の声の先生に何かあるかと思ったが、シャレンの言葉に悪戯心は掻き消えた。
「見えるのか?呪いが」
「そう言うモンなんじゃ」
「ソレを確認するのは持ち帰ってからだ」「迂闊に開ければ…全滅の…恐れ…」「なのですっ」
口だけ男の言葉には少々世話になっていたアウディー。ここは皆の意見を尊重する他なかった。
休憩を終えて、帰還の途に就く。モンスターハウスは破壊したものの、通路に湧く魔物の頻度は増えているようで、経験者曰くかなり多いそうだ。頑張って掃除しても結局はフィーバーしてしまう事が分かり皆肩を落としたが、少しでもフィーバーを遅らせられれば準備を整える事が出来ると先生は言う。生徒達は少しだけ肩を上げた。
─時間稼ぎとしては上々、か─
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