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3 欲望のままに
街の子供は街が親である
しおりを挟む「あん、お客さんっ、こちとら仕事が…残ってんだよぉ」
朝、盥の湯を回収しに来た女将を【恩恵】で好意を増し、鞘に収める。旦那との関係が希薄になって久しくモノを収めていなかった女将は少しだけねと尻を突き出した。しかし宿屋の朝は忙しい。アウディーは1度だけ中へ注ぐと女将を解放した。
「引き留めて悪かった。盥は俺が運ぼう」
「今夜は…泊まるのかい?」
女将の言葉にアウディーは連泊を決めた。
アウディーが連泊するのは他にも理由がある。昨夜靴屋のメアイーと話した通り、装備の新調を考えていた。何せ剣がない。ダンジョンでドラゴンを斬った際に砕け散り、それから今まで解体用のナイフだけでここまで来たのだ。街道とは名ばかりの山道を通って靴もヘタり、毎日汚れを減らしていた鎧やマントも使用感が強く出てしまっていた。なのでアウディーはメアイーに聞き出した店を巡り、装備を改める事にしたのである。
「客か?見ねぇ顔だな」
「靴屋のメアイーに聞いて来た。剣と言えばココと聞いてな」
地元住民に聞いて来たと聞くと、店主は誰もが気を許す。鍛冶屋のムキムキ親父ですら笑顔を見せる魔法の言葉であった。
「で?あの娘とは、どう言う知り合いだ?」
「昨夜暴漢に襲われていたのを助けた縁でな」
店主達の次の言葉も大体同じである。そしてアウディーの返答を聞き、感謝したり少しおまけをしてくれる。街の女は大事にされているようだ。
剣に盾。革の防具に野外用のブーツ。マントにインナー、街用の衣類も新調し、稼いだ金が殆ど無くなった。ギルド証の中には帝国通貨が残っているが、もちろん王国では使えないのでアウディーは再びその日暮らしとなってしまった。
─下取りしてもらえただけマシとするか。次の街まで味なしの肉だが…─
買い物を終え、宿に戻ると宿の前に知った顔。靴屋のメアイーが立っていた。
「あっ、アウディー様っ」
「どうしたメアイー」
「様変わりして驚いたわ。新調したのね」
「店の人達、皆良くしてくれたよ。少し歩こうか」
「それなら家に来てよ。親がお礼したいって」
「礼ならもう十分だけどな」
「うふっ、それはそれだよっ」
宿には入らず路地に入り、途中舌を絡めて路地を抜ける。裏通りを少し歩いた先に、靴の看板が掛かった店舗。ココがメアイーの家であると言う。
「ちょっと待ってて。お母さーんっ、アウディー様を呼んで来たわよーっ」
店舗の中は見た目通りの靴屋で、街用の品物が並んでいる。見た目からして中流以上の者へと向けた商品だろう。皮袋を縛っただけの様なモノは見付からない。
「ようこそ。貴方がアウディー様ですね。娘をお救いくださり本当にありがとうございました」
丁寧な口調の男性はこの店の店主で生産者。そしてメアイーの父であろう。身形と言葉で理解する。夫の後ろで頭を下げているのはメアイーの母に違いない。
「たまたま見掛けて手を差し伸べただけです。お嬢さんがご無事で何より。これからも大事になさってください」
両親は、アウディーの言葉遣いにハッとした。取引相手にもいるのだ。この言葉遣いをする者が。
「アウディー様はお貴族様の出で?」
「お気になさらず」
店主の言葉にそう返す。それでも内心気が気でないだろう。
「アウディー様って、やっぱり貴族様だったんだ…」「コラッ、メアイー」
「元、だよ。今は冒険者だ。店主殿の丁寧な言葉についそれっぽく返してしまった。すまんね」
「滅相もございません」「寛大な心に感謝を」
─スコリエラ家の寄子はだいぶ横柄なのか?─
アウディーは顔には出さず、思った。貴族と知ってビクビクし過ぎだ。店舗に並んだ品を見て、貴族でも満足に足る品である事は分かる。それでもこの怯え様は、色々理不尽な仕打ちをされて来たに違いない。
「アウディー様っ、お部屋に来て!お茶にしましょう!」「コラッメアイーッ」
当の娘は気にもせず、母の言葉もどこへやら。元貴族の手を取り引っ張った。
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