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3 欲望のままに
男の二人旅
しおりを挟む「さあ、行こうか間者殿。間男の方が良いだろうか」
「国賊とでもお呼びください。…ヘタっても助けてやらんからな」
軽口に悪態を返すアウディーは、エクサヴァルに背を向けて屈む。
「さ、どうぞ兄上」
「うむ」
アウディーの背嚢を背負ったエクサヴァルがアウディーにおぶさると、人智を超えた肉体Lvは荷物と男を軽々と担ぎ上げた。
「父にもされた事が無かったな」
「俺もだよ。では行こう。舌を噛むなよ?」
「んっ」
威力メイドの見張る中、アウディーは城の壁を飛び越える。背中の義兄は突然の圧に身を強ばらせ、着地の衝撃に小さく息を吐いた。だがそれだけでは終わらない。間を置かず体を引っ張られる感覚に襲われては悲鳴を上げる事もままならない。馬より速いアウディーの襲歩は人気の無い街を行き、勢いそのまま壁を飛び越え森の中に身を隠すまで続いた。
「ふぅ。どうだ?怖かったろう」
「ぜ、全然っ」
「ならば降りて歩いても良いのだが?」
「それは無理だ」
エクサヴァルは腰が抜けていた。いくら体を鍛えていても、元は寝たきり、何もかもが初体験なのだから仕方の無い事であろう。アウディーはエクサヴァルが慣れるまで速度を落として移動した。真っ暗な森の中、風切り音しか感じられないエクサヴァルに如何程効果があったのかは分からないが。
「……お、おお…」
速さに慣れて来たエクサヴァルがようやく声を上げる。彼は日の出を見るのも初めてだった。
「お目覚めかな?」
「お、起きてはいたさ。目が乾いて開けていられなかったんだ」
「寝てるのと変わらんよ。食事の前に鍛錬としようか」
「武器は用意していないぞ?」
「走るんだよ。さあ降りろ降りろっ」
アウディーはエクサヴァルを背中から剥がすと背嚢を回収して走らせる。城の森を走り回っていたと聞いたがアウディーの速さには当然敵わず、【恩恵】で疲れを減らしながら彼の全力で走らせた。
「あ…あが…、あが……」
夜になり、エクサヴァルは後悔した。いくら走っても疲れないからと愚かにも全力を出し続けた己に。樹上に作られた板の間に仰向けにされて、彼は微動だに出来なくなっていた。
「今日は良く走ったな、褒めてやろう。明日からは少しずつ楽になるだろう」
傍に座り幹に背をもたれる偉そうな声を、エクサヴァルは信じる事が出来なかった。が、夜が明けるとアウディーの言葉が真実である事を理解する。
「なあ、体が妙に軽いのだが、昨日のイジメが原因か?」
「肉体レベルが上がったのだろうよ。ただでさえ寝たきりだったのだろう?レベルが低いからこそ上がり方も早いのだろうさ」
「なるほど…」
アウディーは嘯くが、実はエクサヴァルが寝ている間に【恩恵】を使って肉体Lvを上げていた。戦闘系所かスキルの1つも無いであろうエクサヴァルには、逃げるか殴るか耐えるかでしか生き延びる術がない。戦闘経験の無さそうな彼に、せめて逃げ足だけでもと【恩恵】を与えた結果、疲労の回復力も増したのだ。
「ハハッ、体が軽いっ。昨日より早く走っているのに口を開く余裕があるぞっ」
【恩恵】により増したモノは他にもある。持久力に筋肉量、走る技量も増していて、昨日の倍の速度を出しても話をする余裕を見せた。当然彼は気付いていない。普通の人間は1日で速度を倍にする事等出来ない事を。だがアウディーはエクサヴァルが知らないのを良い事に、寝てる隙を突いて彼の肉体Lvを上げ続けた。
─Lv200。精神Lvは上げてないが歳相応にはあるし、逃げるくらいは出来るだろう─
アウディーは忘れていた。国の大将であっても3桁に届かない事を。エクサヴァルも勘違いしていた。毎朝体がギクシャクするのは体が強ばっているだけだと。そして20日経ち、エクサヴァルは初めて街に滞在する。アウディーにとっては必要な街、ディクストプンである。
「こんな物が売れるのか?」
「冒険者はコレを売って生活しているのさ」
エクサヴァルは訝しんだ。
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