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3 欲望のままに
良い装備
しおりを挟む「あ、貴方アウディーさんっ」
「ほう、名が知れているのだな」
ディクストプンのギルドに入ると受付嬢から声が掛かる。昼前でガラガラの建屋に彼の名が響くと義兄は感心したような声を発した。
「ちゃんとランクに見合ったモノを狩って来たぞ。肉もあるから先に買取りを頼みたい」
「ああはい。報酬の支払いがあるので戻って来てくださいね?来ないとマスター呼びますから」
─脅迫かっ─
「呼んだら国を揺るがしてやる」「は?」
吐き捨てて、買取カウンターへ。そこで常識的な量の獲物を査定してもらう。以前言われた通り、ランクにあった獲物は買取価格が高かった。
「本当に売れたな」
「そちらさん、冒険者じゃないの?」
買取嬢の言葉を肯定すると、冒険者の出で立ちである事を不思議がられる。エクサヴァルが身にしている物は、革製なれど平民が着るには高価な物で、値段だけならアウディーのソレよりも高価であった。目利きである買取嬢であればこそ明確な差を判別出来た。
「旅の護衛をしていてな。戦えないが守りは欲しいので鎧を着せているのだ」
「ん~、個人依頼は感心しませんよ?」
「紹介が遅れたが兄だ」「兄のエクサヴァルだ」
「身内ならまあ…エクサヴァル…さん…?」
頭に?の浮かんだ買取嬢を急かして金を受け取り受付へ引き返す。帝国国民なら名前を知る者もいなくはない。顔が知られていなくてホッとするアウディーであった。
「ちゃんと戻りましたね?偉い偉い」
─どんな褒め方だ…─
「女、私も冒険者になりたい。なるように致せ」「は?」
「言い方が堅いな。それに冒険者になる必要はないだろ、戦えないのだから」
「一々金を払って街に入るのだ。私も金を稼がねば、お前に借りを作ったままになるではないか」
「あの、アウディーさん、もしかして…?」
「俺もだが、兄も元貴族だ」
「兄のエクサヴァルだ」
「こ、これは大変失礼を致しました。コチラの用紙にお名前を頂ければすぐにご用意致しますっ」
アウディーは元貴族。それでもフランクな受付嬢がエクサヴァル相手に下手に出る。元とは言え貴族となると、性格によっては家を傘に横柄な態度に出る者もいる。受付嬢の処世術であろう。
「姓は書くなよ?」
「文字を書くのも初めてだ」「代筆させて頂きますっ」
冷や汗が止まらない受付嬢はエクサヴァルから用紙を奪う様に取り返し、彼から名前を頂いた。貴族が全員、学を修めている訳ではない。家によっては何もさせない所もあるのだ。受付嬢は恥をかかせたと思って用紙を汗で汚しているが、エクサヴァルは書いた事が無いだけで文字を知らない訳ではない。彼が顔を顰めたのは文字を書くのを楽しみにしていたのに横取りされてしまったからである。
「ふん、これで私も冒険者、か」
「その通りでございますぅ…」
「では俺の番だな。報酬と言っていたが?」
「あ、はい。ダンジョンドロップの分配がありますね」
地下五階層の宝箱から出た装備品が売れたそうで、分配されると言う。アウディーは手伝い程度しかしなかったのでそんな物無いと思っていたが、上位パーティーは律儀であったようだ。
「ダンジョンか。行ってみたいな」
「…そうだな、行くか」
アウディーは断らなかった。しかし移動の支度もあって今すぐにとはならず、今日から数日この街に逗留する事とした。希望が叶うのであればエクサヴァルに文句は無い。武器も買ってもらえると聞いて不機嫌は掻き消えた。
「さあ、武器を買いに行くぞっ」
「明日だ明日。まずは食事と、宿に荷物を置かねばな」
「約束だ、違えるなよ?」
「善処しよう」
しかし約束は違える事となる。
「あンた!また来てくれたんだねっ」「姐さん!アウディー様が帰って来たよ!?」「男連れだよ!」
娼館では人を集めて掃除をしていたようで、女達はアウディーの姿に歓喜の声を上げた。
「男にも手を出し始めたのかい?」
「全く、冗談ではないよ」
エクサヴァルは娼館に逗留し、歓待を受けた。
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