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3 欲望のままに
痛みを乗越え…
しおりを挟む「死なん程度に…な」
「……起きていたか」
アウディーは完全に寝ていたが、エクサヴァルの害意に気付く事が出来て目を閉じたまま口を開く。それは長い野宿の経験で培われた感覚であり、彼の首元に向けられた切先の持つ効果を知れば、所持者がどの様な行動を起こすかは容易に予想出来た。
エクサヴァルによってスティーラと名付けられたその剣は、斬った物の能力を奪う効果を持つと鑑定がなされた。もちろん武器の本懐である命を奪う事も出来るが、この剣にとっては瑣末事に過ぎない。
「私には、力が必要なのだ」
「鍛えるのが面倒になったか。とにかく、ドアの修理費はお前が出せよ?」
アウディーは左腕をシーツから肌けさせるとはぁ…と長めの息を吐き、来るであろう痛みに心を構える。
「死なせたら姉上が怒る、からな」
「悔しいが、母も悲しむ…か」
晒し出された左腕にツンとした圧迫感があり、すぐにプツッと肌の裂ける感触を得る。エクサヴァルは遠慮がちにアウディーを刺した。アウディーに痛みはない。良い剣である証である。
「おい…、なんだこの数値は……」
「歳は奪うなよ?下の世話をしてもらうからな」
「肉体Lvに精神Lv…殆ど2000を超えているじゃないか。スキルもおかしな事になっているし」
─刺した者のステータスが分かるのか。別の意味で便利な剣だな─
「歳以外全部奪ってみろ。性別は奪うなよ?」
「もう持っているっ……んぐ…」
─やはり苦しいか。こちらは傷がジワジワ痛んで来たな─
アウディー自身、【恩恵】の影響で体が痛む事は理解していた。スティーラの使用者が呻く声を聞き、肉体か精神Lvのいずれか、それとも両方を奪った事を察した。スキルは増減させても痛みはないので奪われたかどうかは不明だが、ステータスを見れば判る事。彼は無言のままステータスと念じた。
名前:アウディ一
性別:男 年齢:15
肉体Lv:1new! 精神Lv:1new!
スキル:
恩恵:±(Lv1/-)new!
称号:乱用者
「ん?恩恵は奪えんか。称号もくれてやりたかったが」
「う…動けん…苦し……」
「がまんしろ。俺だっててが痛いんだ。早よう抜け」
蹲り、呻くエクサヴァルに声を掛けるもそれ所ではない様子。少しずつ慣らしていたとは言え、いきなり2000以上レベルが上がってはこうもなろう。床に這うように倒れた彼を、アウディーが助け起こす事は出来ない。彼もまた、肉体Lv1の影響で身動き取れなくなっていたのだ。
─恩恵が残ったなら、どうとでもなる─
アウディーは自分に掛けられた【恩恵】を解除する。ステータスは変わらないが、頭の中に解除した事を告げられた。
名前:アウディ一
性別:男 年齢:15
肉体Lv:2750new! 精神Lv:2750new!
スキル:基礎魔法(Lv100/-)new! 読み書き(2100/∞)new! 礼儀作法(2100/∞)new! 房中術(2100/∞)new! 戦闘術(2100/∞)new! 操縦術(2100/∞)new! 察知(100/-)new! 野営術(2100/∞)new!
恩恵:±(Lv100/-)new!
称号:乱用者
─取り敢えず、こんなモノか…─
刺されていた腕を見て、血が止まっているのを知る。結果としてアウディーは前より成長した。欲しかった房中術は生活スキルの後すぐに取得したし、剣技から得物を問わずに戦える戦闘術に、馬以外も乗りこなせる操縦術へと覚え直した。そして限定を無くした察知に、これも欲しかった野営術も取得した。
「エクス、まだ痛むか?」
「私は…死ぬ…のか……」
「死ぬか馬鹿。一気に肉体Lvを上げればそうなる。欲張り過ぎだ」
「殺さ、ないのか」
「その剣を手に入れた以上、いずれ特訓してやるつもりだったよ。それが早まって苦しみが増しただけだ。お前が苦しまんよう、少しずつレベルを上げていたのだぞ?」
エクサヴァルは泣いて詫びた。だがアウディーは彼の痛みを減らさなかった。
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