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3 欲望のままに
美味い物を美味いと思える幸せ
しおりを挟む昨晩は大いに懲りて、翌日は昼まで寝はがしていたエクサヴァルが遅い朝食を摂りに食堂へ降りて来る。アウディーはもちろん昼食で、煮込まれた魚と野菜のスープを楽しんでいた。
「お、おはよう…」
城を出て少々尊大であった態度は見る影もない。
「遅いな。回復度合いも増してるハズだが」
「明るくなって、やっと眠れたよ。こんなに眠りが恋しくなるとは思わなかった」
「何よりだ。後2日は暇になる。上がり過ぎたレベルを体感して来るが良い」
「狩りに行くのかい?」
「いざと言う時に動けなくてどうする。俺だって何度も剣で空を斬った。魔物の前でな」
アウディー個人も少し強くなったため、2人揃って狩りに出る事にした。アウディーにとっては誤差の範囲であったがエクサヴァルには10倍以上の差である。当然の様に剣は血を纏わず、体当たりで敵を血祭りに上げていた。
「ぶつかっただけで、なぜ死ぬんだっ」
「加減を覚えろよ?女が死ぬぞ?」
「……それは、嫌だな」
とにかくゆっくり動く所から始めて、加減を覚える頃には既に日が落ちていた。宿代が勿体無いが、今夜は野宿である。
「ん、美味い。これも能力を奪った影響か?」
「俺の腕が上がったんだ。能力を奪われた影響だよ」
アウディーの【野営術】で作られた料理は焼いただけの魔物肉よりはずっとマシな出来となっていた。血や水分を抜いた肉から筋を外してミンチにすると、刻んだ野草や香草を練り込み更に臭みを消す。そして丸めた塊を大きな葉で包み蒸し焼きにする事で柔らかく肉汁たっぷりの蒸し焼き肉となった。
「アウディーよ、お前食べ物にだけは拘りがあるよね」
「貴族を離れたとは言え、食事の質だけは落としたくないのだ」
「私は気にした事もなかったな」
「美味い物が不自由なく食せる生活を維持出来る様になってくれ」
そもそもエクサヴァルに食事を選り好みするだけの体力はなかった。王家ではあるので良い物ではあったのだろうが、彼にとってはただひたすらに明日生きるためだけの食事であった事もあり、何を食べているか等気に掛ける余裕は無かったのだ。
明けて朝。開門と同時に街へ入ると宿屋に戻り朝食と仮眠をし、支度をして食堂で待たせてもらう。しかし昼近くともなると、食事客が集まりだして女将の視線が心に刺さる。我等も少し摘もうか、そう言おうと口を開けたアウディーを呼ぶ声が室内に響いた。客達は静まって呼ばれた者を探す。渡りに船と立ち上がり応えた。
「俺がアウディーだ。そちらは?」
「ソーズ家三男、騎士イェールズだ。上の者にお繋ぎする故、同行されたし」
ソーズ家。アウディーは家名を略しているのと同時に職位も略していると察した。騎士ならば〇〇団△△隊…と言う風に所属を明かすモノだから。
─ヴェルソーズ家だろうな。そして聖騎士団近衛…小隊、辺りか─
彼の服装では役職まで分からなかったが、予想は正解であった。イェールズに案内されて向かったのは貴族街の目と鼻の先にある高級宿。他国や他領の貴族が宿泊するためだけにあると言って過言ではない宿であった。
「アウディーよ、私達もこう言う宿に泊まるべきではないのか?」
「昨晩野宿したからそう思えるだけだよ」
「先程まで安宿で寝ていたではないか」
─ああ言えばこう言う!精神Lvを減らしてやろうかっ─
だが【恩恵】を使うには宿の警備は手厚過ぎた。聖騎士団の貸切かと思う程に豪奢な鎧が並び、動いていなければ派手過ぎる飾りに見えた事だろう。だが中には人がいて、ガチャガチャと銀の鎧を鳴らして歩く。
「アウディー殿とお連れ殿をお招きしましたっ」
「ご苦労、下がれ。では参りましょう」
イェールズが報告を上げた聖騎士は隊長格であるハズだ。その隊長格が直接自分達を案内すると聞いて目的の場所に御座すのが誰と誰かを【察知】する。
─おう……─
「アウメンターレ、社交界で顔を合わせておるな?」
普通では、居てはならない人物が御座した。
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