±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

もる

文字の大きさ
77 / 148
3 欲望のままに

美味い物を美味いと思える幸せ

しおりを挟む


 昨晩は大いに懲りて、翌日は昼まで寝はがしていたエクサヴァルが遅い朝食を摂りに食堂へ降りて来る。アウディーはもちろん昼食で、煮込まれた魚と野菜のスープを楽しんでいた。

「お、おはよう…」

 城を出て少々尊大であった態度は見る影もない。

「遅いな。回復度合いも増してるハズだが」

「明るくなって、やっと眠れたよ。こんなに眠りが恋しくなるとは思わなかった」

「何よりだ。後2日は暇になる。上がり過ぎたレベルを体感して来るが良い」

「狩りに行くのかい?」

「いざと言う時に動けなくてどうする。俺だって何度も剣で空を斬った。魔物の前でな」

 アウディー個人も少し強くなったため、2人揃って狩りに出る事にした。アウディーにとっては誤差の範囲であったがエクサヴァルには10倍以上の差である。当然の様に剣は血を纏わず、体当たりで敵を血祭りに上げていた。

「ぶつかっただけで、なぜ死ぬんだっ」

「加減を覚えろよ?女が死ぬぞ?」

「……それは、嫌だな」

 とにかくゆっくり動く所から始めて、加減を覚える頃には既に日が落ちていた。宿代が勿体無いが、今夜は野宿である。

「ん、美味い。これも能力を奪った影響か?」

「俺の腕が上がったんだ。能力を奪われた影響だよ」

 アウディーの【野営術】で作られた料理は焼いただけの魔物肉よりはずっとマシな出来となっていた。血や水分を抜いた肉から筋を外してミンチにすると、刻んだ野草や香草を練り込み更に臭みを消す。そして丸めた塊を大きな葉で包み蒸し焼きにする事で柔らかく肉汁たっぷりの蒸し焼き肉となった。

「アウディーよ、お前食べ物にだけは拘りがあるよね」

「貴族を離れたとは言え、食事の質だけは落としたくないのだ」

「私は気にした事もなかったな」

「美味い物が不自由なく食せる生活を維持出来る様になってくれ」

 そもそもエクサヴァルに食事を選り好みするだけの体力はなかった。王家ではあるので良い物ではあったのだろうが、彼にとってはただひたすらに明日生きるためだけの食事であった事もあり、何を食べているか等気に掛ける余裕は無かったのだ。

 明けて朝。開門と同時に街へ入ると宿屋に戻り朝食と仮眠をし、支度をして食堂で待たせてもらう。しかし昼近くともなると、食事客が集まりだして女将の視線が心に刺さる。我等も少し摘もうか、そう言おうと口を開けたアウディーを呼ぶ声が室内に響いた。客達は静まって呼ばれた者を探す。渡りに船と立ち上がり応えた。

「俺がアウディーだ。そちらは?」

「ソーズ家三男、騎士イェールズだ。上の者にお繋ぎする故、同行されたし」

 ソーズ家。アウディーは家名を略しているのと同時に職位も略していると察した。騎士ならば〇〇団△△隊‪…と言う風に所属を明かすモノだから。

─ヴェルソーズ家だろうな。そして聖騎士団近衛…小隊、辺りか─

 彼の服装では役職まで分からなかったが、予想は正解であった。イェールズに案内されて向かったのは貴族街の目と鼻の先にある高級宿。他国や他領の貴族が宿泊するためだけにあると言って過言ではない宿であった。

「アウディーよ、私達もこう言う宿に泊まるべきではないのか?」

「昨晩野宿したからそう思えるだけだよ」

「先程まで安宿で寝ていたではないか」

─ああ言えばこう言う!精神Lvを減らしてやろうかっ─

 だが【恩恵】を使うには宿の警備は手厚過ぎた。聖騎士団の貸切かと思う程に豪奢な鎧が並び、動いていなければ派手過ぎる飾りに見えた事だろう。だが中には人がいて、ガチャガチャと銀の鎧を鳴らして歩く。

「アウディー殿とお連れ殿をお招きしましたっ」

「ご苦労、下がれ。では参りましょう」

 イェールズが報告を上げた聖騎士は隊長格であるハズだ。その隊長格が直接自分達を案内すると聞いて目的の場所に御座すのが誰と誰かを【察知】する。

─おう……─

「アウメンターレ、社交界で顔を合わせておるな?」

 普通では、居てはならない人物が御座した。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

処理中です...