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3 欲望のままに
街は臭い
しおりを挟む5歳女子のお茶会は遠くから眺めるだけでも万病に効くとされる。アウディーも参加したかったが、乙女同士語り合う事もあろうかと思い口を挟まなかった。当然父も末娘の提案を尊重する。お茶会を終えた後、嬉しそうな愛娘と暖炉を囲んでなされる報告は寿命を伸ばすと言われているからだ。もちろんこれ等は2人の妄想である。
「でしたらフォルツァ様とアビリタ様も招待しませんと。ジョイエッリ1人だけお呼びしては諍いの元になってしまいますわっ」
「…まあ、良いのではないか?」
─何を考えているのか…─
今度も口を挟まなかったが、ミエレは何か企んでいるように感じた。まあ、悪いようにはすまい。
不意の謁見が終わり、安宿に戻った男2人はしっかり一晩寝て、翌日の明けに王都を後にした。
「このまま街道を行くのかい?」
「途中で迂回する予定だよ。街に寄るのは2回…だな」
アウディーは簡単な説明をすると速度を上げた。肉体Lvを上げたエクサヴァルもしっかりと着いて来て、移動速度は元へ戻った。
「山登り、したかったな」
「荷物検査と称して金を盗まれるから行かん」
アレイムーム領サットルを出るエクサヴァルはバンキーナ山地街を見たかったようで拗ねた。だが金だけでなくスティーラまで奪われたら戦争だ。なのでサットルでは食料品の買い足しだけで済ませ、宿にも泊まらず街を出た。そして前回同様北に迂回しながら東に進み、アットアルメンテ領に入らぬようスコリエラ領に入った。
「街があるな。たまには酒が飲みたい」
「酒か…」
何かの言い訳である事は察したが、言い訳の元が分からない。目の前に見えて来る外壁はスコリエラ領西の大都市ツェーグンガルト。領都スコリエラまで立ち寄る予定はなかったが、以前聞いた言葉を思い出し、エクサヴァルの提案を受け入れる事にした。
「そうだ、女。美味い店と良い宿を聞きたい」
「美味しいお店なら…」
ギルドに入ると少し尊大な態度になるエクサヴァルだが、受付嬢の言葉を遮り事務手続きだけをしてギルドを出た。
「美味い店を聞きそびれたが、何か裏が?」
「無い事は無いな。ギルドと提携してたり、まあ色々あるモノだが、今回はそうではないのだ。食事は自らの鼻で探そう」
「面白そうでは、あるな」
肉体Lv約2200の鼻は伊達ではない。大通りを東西に歩き、見事美味い食事を振る舞う店を嗅ぎ付けた。そして肉体Lv約2700の鼻はソレを凌駕する。エクサヴァルは敢えて店の隅のテーブルを取るアウディーを疑問に思いながらも美味い食事と酒に舌鼓を打った。
「酒はその辺でな」
「お前は果実水だけだが、何故だ?坊やだからか?」
「この街を出ると、次は領都スコリエラだ」
「ング、ング……そうだな」
「スコリエラにはなくて、ツェーグンガルトにはある施設がある」
「……娼館、かな?」
「以前連れ込み宿があると聞いて、今回大通りから探って見た」
「なるほど。その様子だとあったのか」
察しの良い男エクサヴァルは、アウディーの話を聞き、おかしな行動に対する合点がいった。アウディーはエクサヴァルに大通りを歩かせて、食事処を探させていただけでは無かったのだ。アウディー自身も何らかの手段を用いて娼館を探していたのだと考えた。
アウディーはエクサヴァルと歩きながら【察知】と嗅覚を使って匂いとその元を探していた。【察知】への指示は、『街の中に落ちている、人の子種』である。男の服の中にあるモノは当然範囲から消し、女の服の中はいずれ機会があればと範囲から消した。路地裏の暗がりは自分の物もあるかも知れないので範囲から消し、屋内へと範囲を絞る。トイレ、盥の中、床、ベッド、シーツ、干された洗濯物、金持ちの家の風呂…そして見付けた。子種だらけの寝室が並ぶ建屋と、それ等が立ち並ぶ通りを。
「少し抜かないと、加減が出来ない…ね」
「そう言う事だ」
食事を終えた2人の足は、一切の迷いなくその方向へと向かった。
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