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4 それぞれの自由
動き出す者達
しおりを挟む「これでも地下二階層までしか行ってないからな?フィーバーが始まれば地下九階層の魔物にドラゴンだ。買取り切れんのではないか?」
「その時は避難しますもん」
フィーバーで外に溢れ出た魔物は、凡そ50日までで消滅すると言う。街を捨てて50日耐えればまた何年か何十年か街で暮らす事が出来ると買取り嬢は続けた。
「魔石や魔道具、アーティファクトを得るためとは言え、その都度街を再興するのは儲けに見合うのだろうか」
「それを考えるのはお国様ですからねー。目録は後で上に持って行きますので、執務室へ向かってください」
─次代も国のためなら慣習は変えんか。その前に変えさせてもらえん、かもな─
貴重なアーティファクトは戦争にも使われる。実戦で使用し他国への見せしめにする事もあれば、公表して抑止力として活用する事もある。国を痩せさせ、痩せた国を盗って、それで喜ぶ輩は被虐性でもあるのだろうか。
「早かったな」「貴方……」
執務室に通されて、久しぶりの顔を見る。ディクストプンで初めて会ったヨーヨーシュン、レイミルラ・ヨーヨーシュンである。
「久しぶりだな。確かレイミルラ、だったかな?」
「叔母と名で呼び合う仲だったか」
「トロイヤ、人聞きの悪い事を言わないでください」
「トロイヤは妬いているのだ。愛する男を盗られてしまうとでも考えているのだろう」「貴女、そうなの?」
トロイヤは俯いて静かになった。覗き込めば赤ら顔を拝めるに違いない。だがアウディーが動く前にレイミルラの言葉が先に出た。
「貴方の見付けたアーティファクトのお陰で陛下に直接お目通りが叶ったわ。感謝しますね」
「なかなか良い物だったみたいだな」
「詳しくは聞かされていないのだけど、アラグリーラ殿は死ぬまで籠ると仰っていたわ」
「独居老人か、ならすぐだな」「コラ馬鹿」
「貴方のお陰で元気だそうよ?なのですぐにとはなりませんね」「叔母殿までっ」
実際には疲れと痛みを取っただけなのだが、老体にとっては生き返った気分なのだろう。アーティファクトの本の解読に後の生涯を費やすらしい。
「陛下より、貴方に親書を預かっているわ。開ける時は魔力を通して、必ず一人で読むように、と」
「手配書ね」
「手配書を当人に送るかね。叙爵でもされるかな」
「無いわね」
レイミルラから親書の巻物を受け取ると、隙間の出来た背嚢に差し込んだ。そしてダンジョンで得た情報を共有する。地下二階層までに現れた魔物の情報とこの先の予想。2人のヨーヨーシュンは報告を聞き終えると息を吐いた。
「ようやく、か」
「今まで…もちろん私は現物を体験した事が無いのだけれど、今まで街を捨てて耐えて来た理由がそれです。強い魔物が溢れ出して、兵団や冒険者では太刀打ち出来なくなるのです。魔物が強化されるのではなく、強い魔物が増えて上がって来ていたのですね」
「後数日と言った所か…。避難を始めさせよう」
「外に出てから倒さねばフィーバーは終わらないのだよな?」
「そうですね」
「ならばせめて、散り散りにならんように壁で囲むか」
「そんな物、壊されて終わりではないか」
「俺が建てる壁だぞ?そう易々と壊させんよ」
「見て見ないと何とも言えませんが、移動の妨げになれば拡散を抑えられますね」
「どちらにしても避難は行う」
売り物の目録が来ないので、アウディーは後日受け取る事にしてギルドを出る。トロイヤは避難の準備に取り掛かり、レイミルラは壁の確認のため同行した。
「ヨーヨーシュン殿」「危険です。近付いてはなりません」
門番共は寄って来るが、逆にレイミルラが言い返し、入口周辺の人払いをさせた。
「結局、この壁は何の役にも立たんのだな」
「完全には塞げませんし、時間稼ぎしか対処法が無いのです」
「あの年寄りなら知ってそうだがな」
「お年寄りが子供の頃の出来事ですし、この街の生まれではありませんから」
逃げていて情報がないなら仕方無しである。
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