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4 それぞれの自由
死にゆく者達
しおりを挟むダンジョン入口に建てられた壁を消滅させたアウディーは、周囲の建物を消して更地に変えた。
「魔法…ではなさそうですね」
「冒険者の秘密、さ」
秘密と言っても隠しはしない。ダンジョン入口の建屋を端にして、半月状の穴を2つ開けるとまるで丸い穴の間に道が出来たようになった。
「落ちたら一溜りもないですね」
「飛べない魔物は落ちて死ぬ。ドロップの回収は出来ないが、な」
「元々逃げていたのです。問題は無いでしょう」
「人は欲をかく生き物だよ。だから勝てない事を知らしめる道を作ったんだ」
道のように残した土地は、穴への落下を免れた魔物が進む道であり、フィーバーが終わった後は人が進む道となる。この道を残した事で、他所から来た冒険者や国の兵士は命を落とすだろう。だがせっかく来たのに丸っきり戦えないのでは不満が募る。やってみて、ダメな事を理解しなければ納得しないのが冒険者であり国なのだ。
道の出入口を残すように、アウディーは壁を建てる。壁と言っても【基礎魔法】で作った四角い石を、大きく伸ばして硬くして増やした物だ。
「【基礎魔法】?ありえない……。何故その大きさで動かせっ…動かせるんですかっ!?」
「力持ちだからだよ」
アウディーの真似をして巨石を押すが、非力な魔法職では動かす事が出来なかった。実の所は彼女が押す直前に重量を増やしただけなのだが、アウディーは力の有無を解答とした。
ダンジョン入口と道を丸く囲み、高く分厚い壁が建った。辺りは既に薄暗く、集まっていた野次馬達も飽きて帰ってしまっていた。どうせ明日も来るのだろうと、施行主は息を吐く。
「明日は階段を作らねばな」
「登れるのは楽しみですね」
「落ちたら死ぬけどな。暇ならまた見に来ると良い。ではな」
「待て!そこの者!」「動くなっ!」
レイミルラと別れようとして、多数の声に足止めを食らう。声の主は余所行きの金属鎧を纏った集団で、薄暗い時間でも鎧から艶を放っていた。
「帝国軍か?」
「口を慎め冒険者」「我等と同等の口を聞くな」
─話し掛けて来たのはそちらからだろうに…。旅先で気が大きくなっているな?─
「ならば聞く耳もないな。ではレイミルラ、明日にでも」
「え、ええ。機会があれば」
立ち去ろうとするアウディーに男達が立ち塞がった。レイミルラには誰も寄らず、素通りさせるのは理不尽この上ない。彼が憤りを覚えるのは無理もない話であろう。
「実力も無いくせに道を塞ぐな」
「貴様っ」「帝国騎士団を愚弄するかっ!」
「うん。ひとをみてケンカをうろうねー」
動き出す金属鎧が地に伏せる。コレで2人の殉職者が生まれた。
「な、何をした!?」「……死んでいるっ、死んでいるぞ!」「何だって!?」
「勝手に死ぬな。俺のせいにされるだろうが」
「おのれ…、貴様の他に誰が居る!」
「ダンジョンの悪意、とか?そろそろフィーバーするのだ。そのくらいあって然りだろう」
「氾濫が起きると言うのなら貴様は何だ!?何故壁等作った!?」
「戦うための準備だが?好き勝手に溢れられては戦いにくかろう?間引くために穴を掘り、出入口を作ったのだ。タダ働きでな」
「我等は何も聞いては居らん!」
「するなとも聞いては居らん。道は残しておいたのだから好きに戦うが良い。俺は高みの見物とさせてもらおう」
─どうせ殺れんだろうがな─
2人死んだ程度で動けなくなるような騎士団では話にならん。アウディーは金属鎧達に睨みを利かせ、その場を後にした。2人追って来たが宿に着く前に殉職たらしめた。
「早いじゃない。終わったの?」
部屋に戻ると、サリューテは彼が人を殺めた事に気付くでもなく、ベッド脇の椅子にふんぞり返って酒を飲んでいた。
「明日も少し作業があるな」
「女と?」
「稼ぎに来たと言っただろ?その準備だよ」
「それより飯にしよ。ツマミが足んないし」
人の金で食う食事はさぞかし美味かろう。働いて得た金で食べる食事も決して悪くはないのだが。
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