±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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4 それぞれの自由

宮仕えと自由業

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「旦那様、こんな所にいたの?」

「戦闘が始まっているからあまり端には寄るなよ?」

 落ちる魔物を高みの見物していると、サリューテが姿を見せた。昨夜は夜営で宿に戻らなかったので、女の所にでも行ったのかと思っていたと言う。

「酷い言われ様だな」

「旦那様は戦わないの?」

「この場所を1人で作ったんだ。高みの見物くらいさせてもらいたいモノだな。それに、俺が出るのは皆が飽きてからでも良いだろう」

「ギヒャヒャヒャッ、死ね死ね死ねぇい!」「よっしゃ!31匹目っ!」「おい石寄越せーっ」

「……飽きそうもなさそ」

「腹が減ったら飽きるだろうさ」

「食ってないの?」

「夜から食べてないな」

「背嚢に入ってるでしょ?」

「一人で腹を満たすには気が引けて…な」

「は?」

 アウディーは魔法隊が我慢しているのを見て目の前で食事をするのを躊躇ったのだった。それは下で槍を突く騎士達も同様で、夜営した者で食事をした者は彼が知る限り居なかった。

「いつも飯の回数だけはきっちりしてるのに」

「他にもきっちりしてると思うが」

「とにかく飯食いなよ」

「だがなぁ」

「冒険者殿、我等に気遣いは無用です」「我々にはコレがありますので」

 魔法隊の男が懐から取り出したのはポーション。使う時は腹がタポタポになる程飲むと言う。

─健康には悪いが、腹には溜まる、か─

 魔法隊達に詫びを入れ、乾パンを水で流し込んだ。だが、コレが悪手となる。空腹は、伝播するのだ。筋肉馬鹿が乾パンを齧るアウディーを見て、空腹を感じ始めると、次々と空腹を感じ出し、やがて誰かの腹が鳴った。

「お前か」

「見てたら食べたくなっちゃうじゃん!」

「チッ、肉食って来ら」「俺も行くぜ」「また後でな」「押し込まれんなよ?」

─好き勝手言ってくれる…だが、助かったか─

 元々役立つとは思っていなかったので、思いの外役立った冒険者達を見送った。大変なのは残された騎士団。上からの援護が減って交代もままならなくなっているに違いない。

「腹に入れたし、少しは働くか。サリューテ、奴等に乾パンを分けてやれ」「え、うん」

 背嚢の中の乾パンを増やすと、アウディーは戦線に参加した。上から石を落とすだけだが、彼の石は道幅を超えた大きさで、道の奥へと転がされた。当然耐えられる者も無く、途中で落下するまでの魔物を尽く駆逐した。

「大きさを…」「それなら我等にも出来…」「そこまで大きくは出来んが、コレならっ」

 人の頭を超える程度の大きさには出来るようで、落下に任せて寄って来た魔物にぶつけると、死なないまでもいくらかのダメージと隙を作る事に成功していた。交代で乾パンを食べた魔法隊は水替わりにポーションを飲み、溢れる魔力を魔法に変えて、道に石の塊を落とした。

石壁にもストーンウォール応用が効くぞ!」「口の中がパサパサだったのだ。私も倣うぞ」「壁を消せ、落とせんではないか」

 誰かの機転で自分達に出来る事が増えると知り、皆ポーションを飲んで魔法を使う。喉が渇いたなら水を生成して飲めば良いのにとアウディーは感じたが敢えて口は出さなかった。

 午後になり、夕方になっても、食事に出た冒険者達は戻らなかった。飽きたのだろう。そして暗くなってついに槍衾が突破されてしまった。十分に訓練された騎士団も疲労には勝てなかったようである。前線が後退して後列と交代し、左右の隊が挟み混んで対処しようとするも、力量差があり過ぎて倒すには到らなかった。

「ここまでのようだな」

「逃げる?」「冒険者殿、そう言う訳に行かぬのが宮仕えと言うモノです」

「言い方が悪かった。皆宿営に戻って食事と休息を取ると良い。朝までは俺が対処する」

「ご無理をなさるな」「魔力はあります。今使わずしていつ使うのですっ」

「明日だな。俺だって休みたい」

 アウディーは巨石の玉を転がして道にいる魔物を一掃すると、敵の減った道へ飛び降りて、入口から出てしまった魔物を斬り捨てた。










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