99 / 148
4 それぞれの自由
宮仕えと自由業
しおりを挟む「旦那様、こんな所にいたの?」
「戦闘が始まっているからあまり端には寄るなよ?」
落ちる魔物を高みの見物していると、サリューテが姿を見せた。昨夜は夜営で宿に戻らなかったので、女の所にでも行ったのかと思っていたと言う。
「酷い言われ様だな」
「旦那様は戦わないの?」
「この場所を1人で作ったんだ。高みの見物くらいさせてもらいたいモノだな。それに、俺が出るのは皆が飽きてからでも良いだろう」
「ギヒャヒャヒャッ、死ね死ね死ねぇい!」「よっしゃ!31匹目っ!」「おい石寄越せーっ」
「……飽きそうもなさそ」
「腹が減ったら飽きるだろうさ」
「食ってないの?」
「夜から食べてないな」
「背嚢に入ってるでしょ?」
「一人で腹を満たすには気が引けて…な」
「は?」
アウディーは魔法隊が我慢しているのを見て目の前で食事をするのを躊躇ったのだった。それは下で槍を突く騎士達も同様で、夜営した者で食事をした者は彼が知る限り居なかった。
「いつも飯の回数だけはきっちりしてるのに」
「他にもきっちりしてると思うが」
「とにかく飯食いなよ」
「だがなぁ」
「冒険者殿、我等に気遣いは無用です」「我々にはコレがありますので」
魔法隊の男が懐から取り出したのはポーション。使う時は腹がタポタポになる程飲むと言う。
─健康には悪いが、腹には溜まる、か─
魔法隊達に詫びを入れ、乾パンを水で流し込んだ。だが、コレが悪手となる。空腹は、伝播するのだ。筋肉馬鹿が乾パンを齧るアウディーを見て、空腹を感じ始めると、次々と空腹を感じ出し、やがて誰かの腹が鳴った。
「お前か」
「見てたら食べたくなっちゃうじゃん!」
「チッ、肉食って来ら」「俺も行くぜ」「また後でな」「押し込まれんなよ?」
─好き勝手言ってくれる…だが、助かったか─
元々役立つとは思っていなかったので、思いの外役立った冒険者達を見送った。大変なのは残された騎士団。上からの援護が減って交代もままならなくなっているに違いない。
「腹に入れたし、少しは働くか。サリューテ、奴等に乾パンを分けてやれ」「え、うん」
背嚢の中の乾パンを増やすと、アウディーは戦線に参加した。上から石を落とすだけだが、彼の石は道幅を超えた大きさで、道の奥へと転がされた。当然耐えられる者も無く、途中で落下するまでの魔物を尽く駆逐した。
「大きさを…」「それなら我等にも出来…」「そこまで大きくは出来んが、コレならっ」
人の頭を超える程度の大きさには出来るようで、落下に任せて寄って来た魔物にぶつけると、死なないまでもいくらかのダメージと隙を作る事に成功していた。交代で乾パンを食べた魔法隊は水替わりにポーションを飲み、溢れる魔力を魔法に変えて、道に石の塊を落とした。
「石壁にも応用が効くぞ!」「口の中がパサパサだったのだ。私も倣うぞ」「壁を消せ、落とせんではないか」
誰かの機転で自分達に出来る事が増えると知り、皆ポーションを飲んで魔法を使う。喉が渇いたなら水を生成して飲めば良いのにとアウディーは感じたが敢えて口は出さなかった。
午後になり、夕方になっても、食事に出た冒険者達は戻らなかった。飽きたのだろう。そして暗くなってついに槍衾が突破されてしまった。十分に訓練された騎士団も疲労には勝てなかったようである。前線が後退して後列と交代し、左右の隊が挟み混んで対処しようとするも、力量差があり過ぎて倒すには到らなかった。
「ここまでのようだな」
「逃げる?」「冒険者殿、そう言う訳に行かぬのが宮仕えと言うモノです」
「言い方が悪かった。皆宿営に戻って食事と休息を取ると良い。朝までは俺が対処する」
「ご無理をなさるな」「魔力はあります。今使わずしていつ使うのですっ」
「明日だな。俺だって休みたい」
アウディーは巨石の玉を転がして道にいる魔物を一掃すると、敵の減った道へ飛び降りて、入口から出てしまった魔物を斬り捨てた。
10
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる