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4 それぞれの自由
サリューテは煽り文句が汚い
しおりを挟む「チッ、冒険者めっ…」
悪態を吐く派手鎧だが、最後尾からでは語気も弱く、騎士達の歓声に掻き消された。
「総員撤退。戻って食事と休息に当たれ。夜明けと同時に交代する」
「……総員、一時撤収」「ちょっ!?」「一時撤収!」「「一時撤収っ!」」
どこからか撤収の声が掛かると、背後から聞こえる声を掻き消すように呼応して騎士達は撤収を始めた。
「クソッ、覚えておれよっ」
「覚えられて困るのはお前の方だ」
何か喚いたが無視をして正面を見遣る。巨石を穴に落とした魔物等は、道の中程まで走り寄っていた。
【恩恵】を使えば朝まで無双する事は容易い。だが真面に戦って、翌朝になって軍が職務放棄するならば翌日に響いて来る。なのでアウディーは体力の温存に徹し、石で数減らしをしながら残った魔物を蹴散らして、更なる落下を誘う戦術を取る。暗くなって魔物共の足元が覚束無くなるとその数は飛躍的に伸びた。
「アウディー!無事かっ!?」
背後から掛かる声に剣を掲げて応える。声の主はトロイヤ。スラリと抜剣する音がして、アウディーのいる道半ばへと寄って来た。
「殺れるのか?」
「殺れねば死ぬだけだ」
「死ぬなら下がれよ…。九階層の魔物だぞ?」
「その時は助けてくれ」
避難指示は済んだのか?聞く間も無く飛び出して行ったトロイヤは、魔物に斬り掛かってぶっ飛ばされた。幸運にも道の上へ飛ばされた事にアウディーはホッとしたが、暗い中で考え無しに突っ込んで行くのは無策過ぎる。迫り来る魔物共を斬り払い、彼女の首根っこを掴むと入口まで退避した。
「無謀過ぎるな」
「助けてくれるのだろ?」
「落ちたら助けに行けないぞ」
「そこの人、上に上がって!」
この声はサリューテ。宿に戻らず居残っていたようだ。アウディーは彼女に合流するようトロイヤに指示して戦線に戻る。トロイヤはゴネようとしたが、サリューテの声に渋々戦線離脱を決めた。
─役立たずは言い過ぎだが、夜目が利かないのは話にならんからな─
星空の下ではぼんやりとした道に魔物の目や武器がキラリと光るだけ。こんな状況で戦えるのは馬鹿げた肉体Lvのアウディーか、スキル等で夜目を身に付けた者だけだ。魔物ですら夜目が利かず、誰かを穴に落としたり、自ら穴へと嵌って行く。
そんな中、厄介な魔物が現れた。それは闇夜を浮遊し淡く光る光球。エレメンツスフィアだ。地下七階層の魔物であるソイツ等は、こちらが攻撃を仕掛けない限り敵対する事は無い。だが敵と認識すると無尽蔵と言われる魔力でそれぞれの体色に応じた属性魔法を無差別に放って来る。地下九階層の魔物の中で残り続けていたのは、今まで誰からも攻撃されなかったからだろう。何より一番厄介なのは、穴に落ちず、敵の視界を確保してしまう事だった。
─近付く前に……─
アウディーの投石が赤いエレメンツスフィアに命中し、魔物の中へと落ちて行く。馬鹿げた肉体から放たれた投石だが、この程度で死ぬエレメンツスフィアではない。アウディーはエレメンツスフィアが浮き上がる前に魔物を減らし、剣での攻撃を考えていた。
「グヒャッ!」「ギィヤァァアッ!!」「キャウッ!」
魔物の中に火柱が上がり、夜空を照らして魔物を燃やす。エレメンツスフィアの無差別攻撃が始まってしまった。
「やばっ」
アウディーは巨大な丸石を転がして道にいる魔物を一掃しようと試みるが、目標の1匹にだけは避けられた。潰れてくれたらと淡い期待をしていたが、浮いている敵は当たっても弾かれるだけで効果は今一つのようであった。
─こちらに気付いて…、また出たか─
続々と現れる魔物の中に、新たな灯りが浮き上がる。青く光るは水のエレメンツスフィアだ。火のエレメンツスフィアは他の魔物毎水の同族に対して火を放つ。燃え上がる魔物達。しかし水のエレメンツスフィアはビクともせず、立ち上る炎を水柱で消すと、細い線状の水で火のエレメンツスフィアを貫いた。
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