±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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4 それぞれの自由

未練

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「……きてっ!旦那様っ!敵だよ!?」

「!?敵っ!?いぎっ」

 サリューテの言葉にハッとして目覚めたアウディーは勢いよく起き上がろうとして転げてしまう。目の前には魔法を放つ兵が居て、恥ずかしい姿を晒した事にアウディーは赤面するが、笑う者は誰一人いなかった。皆それ所ではなかったのだ。魔法を放つとすぐに壁に身を隠し、反撃の魔法を回避する。命懸けの戦いに、痴態を見ている暇等なかった。

「状況はっ」

「冒険者殿、なぜ腹這いに?」

「その壁は1枚だから貫通する。頼り過ぎるな」

「承知しました。状況ですが……」

 聞くと、エレメンツスフィアがまた出たようで、攻撃を当てて無差別攻撃を誘発してしまったらしい。数減らしには良いが、騎士団の数も減らしてしまったそうで壁の上でも数人が横たわっていた。

「皆、攻撃が落ち着くまで外側の壁に寄れ。俺達が攻撃しなくても自滅してくれる。地盤が崩れるかも知れんから階段の近くに居ると良い」

「はっ、攻撃止め!攻撃止めー!」

 アウディーの進言を聞き入れて、魔法隊は階段付近まで下がる。死なないまでも怪我に至った者もいて、回復魔法が光を放った。

「サリューテ、無事か?」

「危ない事には首突っ込まないよ」

「何よりだ」

 2人並んで壁の隅に腰を下ろす。下にいる騎士達には悪いが無差別攻撃が収まるまではこうしている他は無い。事実、落下防止の壁が水激によって切られ、巨石が当たってズラされている。他の属性の攻撃はない。残ったのは水と土属性なのだろう。

「被害報告。騎士団に死者及び怪我人多数。魔法隊の死者は8、怪我人は鋭意治療中です」

「ご苦労。水と土は強いのか」

「魔物共の魔法でしょうか?私が思うに偶然かと。属性の相性が良かった攻撃が水と土属性に多かったモノと予想します」

 生物に致命傷を与える雷魔法も無生物には効果無い。人にとっての最強は、仲間内では最弱であるようだ。水激や投石も十分に脅威ではあるのだが。

「ギャアアアアアッ!!」

「ぎゃっ!」「新手かっ!?」

 耳をつんざく鳴き声に、人間達は驚愕の声を返す。そして壁から競り上がって来る姿に兵は言葉を失った。

「あ、アレ…もしかして……」

「ドラゴンだ。やはり飛べたか」

地下十階層のボスであるドラゴンは、水激と投石を浴びてなお高度を増し、口腔内に魔力を溜める。

「総員!階段の下へ隠れろ!ブレスが来るぞ!」

 アウディーはサリューテを抱え、外へ向けて飛び降りた。多少の高さはあるが彼の肉体であれば問題無い。サリューテは少しだけ驚いたが、普段の移動で似たような事はしていたため声を出す程ではなかった。

 そして、壁が焼かれた。上からは被害状況を確認する声が聞こえるが、下はどうか。見える範囲では生存者はあるようだ。左右の隊は生き残ってはいそうである。流石に騎士団では荷が重過ぎる。アウディーはサリューテに避難するよう指示すると階段を上がって行った。

「無事か」

「今の攻撃による被害はありませんっ」

「何よりだ。悪いが良いトコ取りをさせてもらうぞ」

 返事を待たず、ドラゴンを睨む。敵の狙いは既にコチラに向いていて、口の端からブレスの残りを吐きながら、次の装填を待っていた。敵は理解しているのだ。人は飛ぶ魔物に対応する攻撃手段が少ない事を。弓矢、投石、そして魔法。どれも自分に致命打を与える物では無い事が、ドラゴンを慢心させた。

「お、落ちた……」

「魔石が獲れなくなったが、皇帝陛下には宜しく伝えて欲しい」

「それはまぁ。穴の奥へ取りに行く方が大変ですが…」

「鋭意努力する。警戒のまま下の収容急げ」

 魔法隊が階段を降りて行く。アウディーは穴の底を眺めながら少し悔しく思った。出来れば剣で戦いたかったから。だが街に被害を出す訳には行かないし、避難したサリューテやトロイヤに傷付いて欲しくなかった。彼女達が無事であるならば、魔石の1つ拾えなくなった事も惜しくない。そう考える事にした。









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