±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

5 故郷へ…

貴婦人ごっこはミエレの発案

　謁見が終わり、アウディーと老閣下は別室に通される。老執事の姿もあった。

「殿下！お久しぶりに御座います！」

「冒険者、堅苦しい言葉は止めよ。我が友はそんな言葉は使わぬ」

「使いますよ」

　親しい仲であってもここは王城。一言目は正しく発するのが礼儀である。なので二言目は雑に返した。

「王子殿下、お久しゅう御座いますぞ。益々男振りを増して御座いますな」

「サッテロス殿も英気漲って居られる様子。父より年嵩とは思えませんな」

「良い事がありましてな。それより何用で？」

「アウメンターレが来たのだから呼ぶのは当たり前だろう？本来であれば城に入る事も許されなくなったのだぞ？」

「……儂はおまけで御座いますか、そうでございましたか……」

「閣下は我が妻の寄親になられるのですから、この場に必要ですよ」

「アーレ、お前貴族に戻るのか？家名は？」

「家名はリシュテンベルク。サッテロス領に併合されておりましたリシュテンベルク家が復興するので婿に入ります」

「何だ爵位無しか。冒険者ならドラゴンでも倒して来い。騎士爵くらいくれてやるぞ？」

「ダンジョン産のドラゴンであれば2回討伐しておりますよ。帝国で、ですが」

「な、土産もなし、か？」

「殿下への手土産はモノを選びますからなぁ」

「選ぶと言ったな？良い物を寄越せよ？」

「良き王となられた暁には」

「何年選ぶつもりだっ」

「所で、先程話に上げたリシュテンベルク家への婿入りの件ですが…」

「何だ金か？」

「陛下と同じ事を言ってますよ？帝国からメイド等を呼びますので、あまり社交界でネタになされませぬよう」

「探られたくない腹でもあるのか？」

「それはありますよ。爵位無しが女をゾロゾロ連れて婿入りするのですから」

「夫人、お聞きになりまして？」

「聞きましたわ。最近復権なされたと言う、あの家ですわね？」

「そうそう、リシュテンベルク家。あの広いサッテロス領を切り取ったとか」

「当主の娘がお戻りになられたとか。宅の主人もついに領が割れたかと大喜びで、ほほほ。けれど、それだけではなさそうですわよ？」

「はて？それだけではと申されますと？」

「婿に入ったのがなんとまあ、ふふっ、爵位も持たぬ冒険者であらせまする、と」

「まあまあ。それは、ほほほ…」

「しかも帝国から何人ものメイドを引き連れての婿入りだそうで。一体どなたにお婿をお入れになるのやら」

「「おほほほほほ」」

「アウメンターレ、馬鹿芝居は止めい。殿下も戯れにお付き合い遊ばされるな」

　王子殿下から始めたのにアウディーが窘められる。だが殿下も今の馬鹿芝居で理解したであろう。

「アーレ、やはりお前はドラゴンを狩って来い」

「すぐには無理ですよ」

「…その猶予を私に作れと言うのだな？」

「長く掛かります故、その分、選び抜かせて頂きます」

「…そう言う事、か。馬鹿話するだけのつもりがとんだ仕事を押し付けられたわ。弟達にも告げ口してやるから覚悟しろ」

　王子殿下には他国に嫁いだ1人の姉と、3人の弟、そして末子で妹のミエレがいる。1人はアウディーより1つ上、弟は1つと3つ歳下で、双方の家の子供同士仲良く拝謁した仲だ。長兄であるロンファス第一王子殿下はアウディーより2つ歳上であるが、亡くなった兄共々アウディーに親しくしてくれた。悪戯っぽい笑みを浮かべる王子殿下に、アウディーは困った笑顔を返した。



「え？私が領主？ってか貴族？は？」

「仕事は追々覚えてもらうがしばらくは我が家の者を置いておくから安心せい」

　屋敷に戻り、サリューテに城での事を説明するが、彼女の目は点になり状況に付いて来れない様子。とにかくまずは現地に行ってみようという老執事の提案に乗せられる事となった。

「長旅となると、この大きさでは狭いかのう」

「俺としては走った方が早いのですが、何せ場所を知らないモノで…」

　街道を真っ直ぐ行って分かれ道を右に、そこから突き当たりの村で待てと言われて馬車を降りた。