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5 故郷へ…
魔女との逢着
しおりを挟む「ご紹介に与ったヒュプレ・タルカン・パレンシャよ。この地を任されているわ」
「サリューテ・リシュテンベルク、です。…よろしく」
「…………」
パレンシャとしてはもう一言か二言欲しいのだろうがサリューテはまだ貴族に染まらぬ身。ジッと見詰める貴族相手にどうしたモノかと身動ぎするしかない。
「パレンシャ様、あまり虐めないで頂きたい」
パレンシャは視線をずらし、声の主であるアウディーへ向ける。冷たい視線は少し見開いたかと思うとすぐに男を射抜く視線へと変わった。
─またか─
「冒険者アウディーと申します」
アウディーは名乗りながら再び掛けられた【恩恵】の効果を消すと、隣に立つサリューテの腰に手を添え引き寄せた。
「妻共々よろしく」
「…面白い子ね。どこの生まれかしら」
「その者はアットアルメンテ家じゃ、文句はなかろう」
「そうで御座いますか。では、よしなに」
そう言うと老閣下に挨拶をし、兵士を連れて退出した。サリューテは大きく息を吐き、アウディーも肩が下がる。
「お前達、あの者と何か?」
「何も。サリューテは覚えはあるか?」
「無いよ。ガキの頃なんて覚えてないし」
「閣下、俺が産まれた時に帯同なされたとかはありませんよね?」
「ないな。その頃はあの者も可愛らしい娘であったからの。今は…」
「今は?」
「今は、魔女じゃ」
サリューテの合いの手が老閣下の口を滑らせる。魔女とは、魔法に魅入られた女を指す言葉ではない。魔法でもスキルでも権力でも、力に溺れた女を指す言葉である。帝国第二王妃エランリエーレも、第一王子を排するようなやり方で次代を皇帝の座に据えていれば魔女の謗りを受けていただろう。とにかく、良い意味では決して使われない言葉の一つである。
「旦那様、お言葉が…」
「淫売とどっちが悪いかな」
「出過ぎた事では御座いますが、悪口にどれがと言うモノは御座いません。言葉はお選び下さいませ」
老執事に窘められて、口の過ぎた2人は言動を恥じた。
「……まあ、あの者がお前達の寄親となる。儂は親の親、と言う訳じゃ」
「お爺さんね」「せめて様を付けろ」
「…お爺、様?」
「……あの者よりは可愛げもある、か。まあ、外では言うなよ?立場を落とすからの」
寄親との面通しを終えて部屋に戻される。この街で3日逗留する理由が判明し、2人はベッドにうつ伏せになって動かなくなった。
「あの女、ヤバい」
「ああ、無駄に疲れさせられたな。アイツの怖さ、分かるか?」
「……なんだろ?自信?肝が据わってる、みたいな」
「ソレを支えているのが【恩恵】だろうな。閣下はどうか分からんが、部屋にいた兵士は皆【魅了】の効果を受けていた。俺も2度もらった」
「勃ってたもんね」
「よく分かったな…」
「いっぱい見てるもの。今も勃ってるよね?1度抜く?」
「お前も疲れてるだろ。夜にでも頼むよ」
「明日は朝から移動よ?」
「…………口で頼む」
言われて気付く明日の出発。今夜はしっかり寝て体調を保たねばなならない。アウディーは装備を外し、サリューテに股間を委ねた。
翌日は朝食を摂ると、宿まで迎えに来た馬車に乗り込み街を出る。
「アウメンターレ様、これから山を越えます」
「分かった。森山か?それとも岩山か?」
「森山に御座います。お気を付けを」
老執事の言葉を要約すると、降りて歩けと言うモノだがアウディーは元より外に出たかったので問題無い。畑の途切れた草原で馬車から降りると道の先には山々が連なっていた。
「サリューテはどうした?」
「私が同行致します」
馬車から降りたのは威力メイド。サリューテを歩かせる訳にはいかないと言うが、担いで行くのだから徒労はない。だがそれだけではないようで、馭者が馬車を降りて老執事と乗り替わった。この馬車で山を上がれる定員が、馭者を含めて3人であるようだ。
「サリューテを頼みます」
「うむ」
「メイドさん、お尻触られないように気を付けてね」
─するか馬鹿─
10
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