±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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5 故郷へ…

下山

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 逃げ込んだ先の袋小路。アウディーの考えは正しい。両脇に谷、そして山に挟まれた一本道でその先は山。リシュテンベルクを襲った魔物の群れが谷に落ち、消滅するまでの時間稼ぎをする場所である。いくら平地だからと言ってそんな所に街を作るか?アウディーは考えたが、この場所だからこそ街を作ったのでは、と考えを改め一つの答えに辿り着く。

「もしかして、鉱山でもあるのか?」

「はい。谷の奥、左右を挟む山は鉱脈を有しております。どちらからも銀と鉄が、稀にミスリルが産出します」

「良い事だが、その山も均してしまいたいな」

「アウメンターレ様は山がお嫌いで?」

 好きも嫌いもないとアウディーは答える。ただ、この左右の壁がなくなれば魔物の動線をズラす事が出来ると続けた。

「それに開拓せんと食料を賄う事も難儀するだろう?」

「鉱石の採掘、製錬がリシュテンベルクの主要産業となっております」

「食費が嵩みそうだな」



 木製の低い壁と上開き式の門。これがリシュテンベルクの街の入口である。名称は街、規模は町、門構えは大きめの村と言った感想を覚える。

─これでは商隊の大型馬車は入れんな…─

「ご領主様のお成りである!門けーっ!」

 威力メイドの力強い声が門兵とその奥にいるだろう兵士達に高く響く。ガチガチギリギリと歯車とロープを軋ませて門が開かれると、兵士達は道に沿って整列し礼を取った。良く訓練されている。老閣下も窓を開け顔を見せた。

「アウメンターレ様、馬車へ」

 老執事の声で狭い車内に招かれる。平地になって馬の負担が減ったのもあるだろうが、見知らぬ顔が馬車の近くを彷徨いていて不審がられるのを良しとしないためであろう。メイドは馭者席に乗ったようだ。

「旦那様、外はどんな感じだった?」

「正直に言うと、門構えは大きめの村。中は町と言った所だな」

「正直じゃの」

「地形的に、これ以上は広くなりませんからね。するには山を切らねばなりません」

「お前は山が嫌いなのか」

 老閣下にもメイドと同じ事を聞かれるが、この街の食料自給率の低さを考えると先程同様の答えをする事は出来ない。樹木は必要ではあるが、売れねば腹は満たされんのだ。

「何か1つでも2つでも、自給出来る食料が欲しい所ですね」

「食肉だけは冬を越す量を賄えております」

「他は他所頼み、か」

「不満か?まあ、良くは無い、か」

「お肉だけじゃダメなの?買えるなら良いじゃない」

「売ってくれるならな」

 アウディーの返事にサリューテは声を漏らした。彼女も何かを察したようだ。無いから買う。売れるから値を吊り上げる。高くても買わざるを得ない。この悪循環で儲けを増やす者がいる。街にとっての害悪が、この街の内外にいて、街を痩せさせている。サリューテはそこまで考えて言葉に出した。

「誰かとは違って聡いではないか」

「良く出来た妻ですよ」「え、えへへ…」

「儂も頭を悩ませてはおるのだ。とは言え山なんぞ切れんでの」

「妻が領主となってから考えて行きましょう」

「ん。まあ、その時はなるように致せ」

「街の事よりダンジョンに入れるかの方が重要かも知れません」

「入るには入れるじゃろう。儂も手を貸すからの。しかし…」

「入れれば問題ありませんよ。ドラゴンを単騎討伐出来る程度には強いので」

「寄孫を後家にしてくれるなよ?」

「ありがとうお爺ちゃま。けどこの人頭おかしいくらい強いから、多分平気よ」

「確かにおかしな男じゃの」

─失礼な事を……─



 馬車は進み、街の中央にある大きな石壁の中へ入る。兵士の詰所兼食料貯蔵庫、そして領主館でもあった。

「サッテロス様、ようこそお越し頂きました。ご当主様のご壮健な様子に於かれましては当家並びに街の民共々嬉しく存じ上げまする。王都に向かわれたと聞き及んでおりますが、本日はどのようなご用向きに御座いましょうか。何なりと申し付け下さいませ」

「うむ。領主の交代を命ずる」

 領主は顔を引き攣らせた。









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