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5 故郷へ…
サリューテの目
しおりを挟む「あ、あの。お言葉ではございますが…」
「リシュテンベルクの娘が帰って来た。後は言わずとも解るな?」
「リ…リシュ、テンベルク…様……?」
「うむ。サリューテよ、こちらに来て名乗るが良い」「え?」
突然話を振られたサリューテはビクリと肩を跳ね上げる。しかし行かねば話が進まぬ事を察すると、老閣下の横に並び名を名乗った。
「いやっお待ちくださいサッテロス様。こちらの女性がリシュテンベルク家であるか真偽を確かめておいででしょうか?まずは正しき後継であると確認出来るまで、私の任を解かれるのはお待ち頂きたく願います」
「そうか。では執務室へ」「ご案内致します、旦那様」「ちょっ、お待ちをっ」
解任領主の話を聞いていたのかどうなのか。老閣下は老執事の先導で行ってしまう。何やら焦った様子で2人の後を追って行く解任領主だが、この男を単純に斬り捨ててはならないとアウディーは直感した。
「さて、付いて行く、か」
「はぁ。気が重い」
「民草を食わせて行く重さ、だな」
「民草持ってから言ってよ」
アウディーはサリューテを抱えて歩いた。女性1人担いだ所で軽いモノである。
「そう言う意味じゃ、ないんだけど」
「俺が、そして領民がお前を下支えしてくれる。だから安心して担がれろ」
「貴族修行がヤなんだけど…」
長く貴族生活から離れていた身のサリューテには、貴族の堅苦しいお作法は好みではないようであるが、裸で横寝になって手掴みで食事をする事に比べれば、どんな所作も堅苦しい事だろう。流石に帝国貴族家での生活や、王都からの旅程で改善されては来ているが。
「サリューテよ、そこに座れ」
執務室。そこは見て分かる程の浪費が部屋一面に飾られていた。華美な調度品には仕事場である事を忘れさせるようなガラス瓶に入れられた酒が並び、モデルとなった人物とは似ても似つかぬ肖像画が壁に汚れが付かぬよう張り付けられていた。老閣下はサリューテを無駄に高そうな机の向こうに座らせる。
「お前にはどう見える」
「どうって…。クズ、かな」
「儂もそう思っておった」
サリューテの言葉に老閣下も同意する。そして彼女の言葉が最底辺と頂点を見た者の言葉である事を知るアウディーも同じ感想を抱いた。
「酒くらい家で飲めば良いじゃん」
「そうじゃな…」
「それにさ、帝国の第二王妃様のお屋敷にしばらく厄介になってたけど、こんな無駄金の使い方なんてしてなかったよ」
「お前帝国におったのか。なるほど見付からん訳じゃ」
─違うけどな─
アウディーと同じ事を考えている顔をしているサリューテは、普段はしない手癖の悪さで机の引き出しをゴソゴソすると、中にある物を片っ端から机の上に並べ始めた。当然解任領主は慌てた様子で駆け寄ろうとしたが、老執事に前を塞がれ立ち竦む。
「旦那様、これ分かる?」
「冒険者に分かるとも思えんが…………この男が馬鹿である事は分かった」
「領主の儂なら分かるやも知れんぞ?どれ見せてみい…………儂も馬鹿であったな」
アウディーが机の上を見て、老閣下もそれに続く。アウディーは立ち尽くして脂汗を流す男を、老閣下は馬鹿に領を任せた自分を馬鹿と評した。
「隠したつもりなのかのぅ」
「後で隠すつもりだったのでしょう。数が足りません故。…この男から、虚言、黙秘、否定する概念を減らせ」
「どうした急に」
「お前の隠している事を話せ」
「…私は子供の時分、寝小便をすると必ず傍付きのやった事にしていました。私は家の……」
「領主の任に着いてからの事を話せ」
アウディーが問い直すと、男の口から地位と権力を笠に着た行為が吐露される。アウディーは初めて【恩恵】への指示を声に出した。【恩恵】の返答はジョム・ジョプリンを正直者の話好きにすると言うモノであった。
「売女の胴元と同じ事してるよコイツ」
「それだけ小物と言う事…何でそんな事知っとるんじゃ」
「夫が女好きで…」
─人のせいにしやがった!─
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