144 / 148
5 故郷へ…
貴族は落ちた物を食べない
しおりを挟む昨夜は楽しい酒を飲み、気持ちの良い朝を迎えたアウディーはギルド2階の会議室で話の場を設けられていた。
「……金貨400枚、確認しました」
「では、地下第10階層への許可証となります」
金貨400枚。ダンジョンで集めた金と手持ちを合わせた金額は、たった1枚の許可証へと成り下がってしまった。だがコレで堂々とダンジョンへ潜れるのだから文句は言えない。金で許可証が買える事を知ったのはもちろん昨夜、腕枕に頭を乗せる2人からの情報であり、ギルドが有能と判断した冒険者に対しこっそりと伝えられると囁かれた。2人の伝手でギルマスに話を上げ、トントン拍子で許可証が発行されたのは当然アウディーの【恩恵】によるモノだ。
「貴殿の活躍に期待する」
「払った分取り戻さなば、な」
恰幅のあるギルマスに返すとその足でダンジョンへ。目的はマジックバッグの入手であるが、金を稼がねば手持ちが寂しかったのだ。
─帝国金貨まで持って行かれたからな……両替手数料は浮いたが─
移動に重きを置いたアウディーは魔物を積極的には狩らず、立ち塞がった魔物だけを煙に変えて地下へと潜って行く。そして地下30階層にてようやく念願の物を手に入れる事が出来た。
「こんなに潜らんと武器も落ちんのか…」
ソレは一振の剣。【恩恵】で消し飛ばすのに飽きたアウディーが魔物を斬り付けた結果、大事に使っていた剣はグシャリと柄が砕けてしまった。彼の握力に剣が屈してしまったのだ。【恩恵】で如何様にも出来るアウディーではあるが、腰が軽い事は些か不安でありマジックバッグの事を忘れ武器を探すために地下30階層まで来てしまっていた。
─鑑定は、すべきだろうな…─
考えて、迷いが生じる。拾得品は全て売らなばならぬルールである以上、この剣を腰に提げて戻るのは愚策。すぐにバレてしまうだろう。隠すにしても背嚢からはみ出るのであれば同じ事。隠して持ち帰るにはどうしてもマジックバッグが必要になってしまった。
─出るまで探す……しか…無い、か─
アウディーは1人階段を降りる。そしてこのダンジョンの難しさを知る。サダシュダンジョンと違い、休憩出来る場所がない。階段の中に魔物が発生する事はないが、狭い段々では横になる事も出来ず、段に座って乾物と水で腹を満たす程度の休憩しか出来なかった。
─まさか、それで徒党を組んでいた?─
丸っきり見当違いな予想をするアウディーであった。彼自身、それがボケた解答である事は理解している。だが突っ込んでくれるサリューテはいない。音も明かりもないダンジョンの階段で、アウディーは寂しさを感じていた。
「せめて、横にならねば」
声に出し、背嚢を漁る。あるのは乾パンと干し肉に、フィールド型ダンジョンに対応するため用意していたマント。採集品に炊具等。
─食べ物を粗末にしたくはないが…─
《基礎魔法》で生み出した石を【恩恵】で伸ばし、階段の上で平行を作ると乾パンを同じく伸ばして土台に置いた。上にマントを掛ければ石よりは柔らかい、乾パンのベッドである。
「まあ、硬いな」
パン工房で一般用のパンを買ってくれば良かった。そうすれば味も寝心地も違っていただろう。四角いパンが売られていない事と、パンを寝床にする前提の話である事を除けば完璧な妄想であった。
いつの間にか眠っていた事にアウディーは気付く。乾パンベッドの寝心地は案外悪くなかったようで、大きさを戻したベッドを齧り、彼は階段を降りて行った。
地下40階層に来て、アウディーは引き返す決断を下す。背嚢がいっぱいになってしまったのだ。折角拾った剣ではあるが、今回は諦めざるを得ない。
─これは呪いの剣なのだ……そう思おう─
魔物を殺しても両手のヤカンと鍋に魔石がいっぱいでは無駄な殺生である。アウディーは無駄な仕事をこなしながら地上を目指した。
「……何です、その馬鹿みたいな量は?」
買取嬢に馬鹿にされるのも久しぶりである。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる