±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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0 その【恩恵】、酷い物だと人は言う。

我が友に、幸多からん事を

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 長い湯浴みで火照った体を自室でさらに温め合って、落ち着いた所で服を着る。

「どうか、どうかご無事で」

「お前こそ、上手く立ち回れよ?」

 屋敷の裏門から外へ出る。使用人達の通用口は木々が茂って身を隠しながら外へ出るのに適していた。お忍びで屋敷を出て叱られた事もある通用門を逃げるように飛び出して、細い路地へと走り込む。

─今を以て、この家を捨てる─

─俺から家名を減らせ─

『アウメンターレ・ディミヌイレ・アットアルメンテから、家名を1つ減らしました。アウメンターレ・ディミヌイレ・アットアルメンテはアウメンターレ・ディミヌイレとなりました。セカンドネームが今後の家名となります』

 失敗だ。家名を勝手に作るのは法に触れる。名乗らなければ良いのだがこれではいかん。一度戻してセカンドネームと家名を減らし、ただのアウメンターレになった。だが凡夫が付けた名を名乗るのも気分が悪い。逃げるなら通り名を付けた方が良いだろう。姉の呼ぶアーレは幼名。使いたくない。

─アウ…ターレ…ディミ、ディム……アウディム…─

 昔から変わらぬ通りを走り、昔の名を変えた通り名が決まった。

 通りを抜ければ大通りに出るが、貴族の格好では目立ち過ぎる。大通りに出る前に行き付けの宿屋に入った。とは言え宿に泊まった事はない。

「いらっ、お貴族様っこの様な汚らしい宿へ…って、アウメンターレ様!?」

 やはり知り合いでも目立つのだな。だが女将は俺の顔を覚えていてくれたようで、嬉しい気持ちで笑みが零れた。

「久しいなベルジーネ。ピッコラは元気にしているか?」

「えぇえぇ、来年には貰われちまいますが、良い娘になりましたよ。会ってやって下さいな」

「それと宿を一晩頼む」

「……はい。一番上の奥をどうぞ」

 ピッコラは1つ歳下で、小さい頃からこの宿の看板娘として働いていた。俺がお忍びで街歩きしていた時に知り合って、折を見ては遊ぶようになったのだ。そんな彼女も来年には成人を迎え、妻として新たな人生を歩むと言う。俺も遊んでいてはいけないな。

 受け取った鍵で部屋のドアを開け、ほんの少しの荷物と共にベッドに腰掛けるとようやく一息吐けた。丁寧に汚されたなめし革のリュックには、執事に用意させた金と庭師アッレグロの着古した服が一式だけ。折角用意させたのに、メイド達には悪い事をした。今日中には今着ている物を売り払ってしまいたいのでとっとと着替えを…下着はそのままで良いな、着替えてしまおう。

「アーレ様、ピッコラよ?」

「今着替えてるから少し待ってくれ」

「え、分かった」

 急がせたのか、意外と早く友が来た。少しキツい靴を履いて友を迎え入れると、彼女は俺の風体に驚いて、次に疑問を口にした。

「街を…出るんだね」

「殺されては堪らんからね。明日からは会えなくなるが、ピッコラも良い妻になれよ?」

「こんな事なら婚約なんてしなきゃ良かったっ!」「おい」

 俺が殺されていたらどうするつもりだったんだ?抱き着いて来たピッコラの肩に手をやると震えている事に気付く。泣いているのか?

「……グスッ…臭い」

「庭師の着古しなんだ。今まで着ていたのを売って色々買い物したいのだが、暇なら付き合ってもらえないか?」

「このまま連れてって?」

「刺客が送られる予定だからダメだ。出来れば部屋も地下の倉庫に変えて欲しい」

「…うん」

 すぐにでも外に出たかったがピッコラに止められた。臭過ぎて服屋に入れてもらえないと言うのだ。確かに臭うがそんなにか?ピッコラは何か用意すると言って部屋を出ると、しばらくして服を一式持って来た。

「これ、お父さんのお古だけど」

「…そうか、洗って返せなくて悪いな」

「さ、早く着替えて」

「……見てるつもりか?」

「慣れてるでしょ?それに何かあったら直さなきゃだし。早く臭いの脱いじゃってよ」

 メイド相手になら慣れてはいるが、友に肌を晒すのは慣れていないのだ。









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