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0 その【恩恵】、酷い物だと人は言う。
見付かってなるものか
しおりを挟むピッコラに見られながら着替えをし、父の遺品に不足無い事を確認した。靴は少し大きいが、キツいよりは良いだろう。
「こっちのは捨てちゃうね?」
「いや、10日は待った方が良いな。細切れに切り裂いて、少しずつ焼くのが良いだろう」
「厨房が臭くなりそ」
「埋めても犬が嗅ぎ付ける。死なせたくないから、守ってくれ」
ピッコラは頷いた。平民は何かと死にやすい。だが貴族のいざこざで死なせる道理は無いのだ。
宿の裏口から静かに外へ出て、ピッコラ御用達の服屋へ向かう。寡黙な男が主人の店だ。およそピッコラ向けの服屋ではないと感じた。
「ここ、お父さんの友達のお店なんだ」
「男向けならありがたい」
「いらっしゃい…って、ピッコラか。しばらく見ない間に男を連れて来るような歳になったか」
「そ、そんなんじゃないからっ」
店主はピッコラを揶揄うと、こちらの姿をじっと見て、少し眉をひそめた。
「ウチのボタンだな…訳ありか」
「旅の支度をしたい。頼めるか?」
「……仲間のよしみだ。奥へ来な」
店主は店を閉めると店の奥へと僕達を案内する。連れられた先は店に並ぶ前の商品が納められている倉庫で、灯りを付けて尚薄暗い。
「そこで待ってろ」
店主はそう言うと、暗がりの中に消えて行く。そして暫くして揃いの服を出してくれた。そして黙って暗がりへ。
「着てみなよ」
「また肌を晒すのか」
先程より暗いので素早く着替える。店主の見立ては良いようだ。そして旅用なだけあって布地は厚く、金属鎧程動きを阻害しない。勿論ガチャガチャ鳴る事もなく、逃げる僕には丁度良い見立てだと感じた。
「この服は返すよ。尽きた先で会えたら礼を言おう」
「変な事言わないでよ」
足音がして、店主が荷物を持って来る。今度は使い古された皮鎧のセットに革靴と皮の外套を出して来て、これも着けろと短く言うと、三度奥へと消えてしまった。
「手入れがされているな」
「分かるの?」
「埃が付いてないし、硬くなっていない。こまめに手入れをしていたと思う」
「思う?自信なくなった?」
「慢心は敵だよ」
確かに違っていたら少し恥ずかしいな。話はそこそこ、店主が戻る前に装備を終えておこう。革製のグリーヴを着けた上に革靴を履く。足のサイズまで見立て通りなのには驚いた。ブレストは頭から被って帯剣ベルトで締めるだけのシンプルな物で、サーコートに近く柔らかい。それにグリーヴと同じ色味をした革のヘルムに革のヴァンブレイス。そして外套を羽織り、最後に皮手袋をして、ようやく防御に安心感が湧いた。
「冒険者みたい」
「確かに」
「仲間の質草だ」
店主の仲間は冒険者だったのか。暗がりから帰って来た店主は、今度は肩掛け鞄と中剣、2本のナイフを小型の丸盾に乗せて来た。鞄の中には皮袋が2つ。中身は空だった。
「鞄は外套の中に隠せ。後は全部ベルトに着けろ」
また脱ぐのか。手袋、外套、ベルトを外し、剣とナイフをベルトに通して装着。その後で皮袋を着ける。鞄を肩に掛けて、外套、手袋で今度こそ。
「手袋は鞄にしまっとけ」
街を出る時に着けろと言う。普段から手袋を着けていた身としては少し肌寒く感じる。
「もう行け」
店主はそう言うと裏口の扉を開けた。明かりが入った倉庫の中は、それ程広さを感じなかった。
「金は払うぞ?」
「足が付く。貴族の金は細工してあるモンだ」
─抜かった!─
危うく友と亡き父の友を殺す所だった。貴族に使える魔術師の中には追跡や探知に長けた者もいると言う。執事が寄越したコレは家の金。そんな事に気付きもせず受け取って、大事な友を危険に晒した自分の何と愚かな事か。
─手持ちの所持金から、付与された魔法を減らせ─
「もう、行こ?」
「……少し待って」
『半金貨20枚、銀貨20枚、半銀貨10枚、銅貨10枚、半銅貨10枚から、2つの魔法が発見されました。ギフトの対象を選択してください』
「魔法が2つ、付与されていた…」
「走んな」
これ程的確な指示は無い。
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