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1 新天地は食事が美味い
焼いた肉は一皿で銀貨3枚もする
しおりを挟むバンキーナ山地街は山頂と斜面を切り均して作られたこの国の信仰の場であり、数ある聖地の1つとされている。麓にあるサンストン領とアレイムーム領からは毎日のように巡礼者等が訪れ、彼等から納められるお布施で街を運営しているそうだ。長い歴史の中で、聖地と呼ばれる信仰の場を侵し、山越えする時代もあったそうで、侵攻を仲裁するために国がこの地を第三者の貴族に割譲したのがバンキーナ領の始まりだと言う。全て実母の受け売りだ。
権利はあっても実力が無い。バンキーナ家の女はサンストン領とアレイムーム領を越えた領地へ嫁に出される。実母は金と力に買われたのだ。
─パン粥一杯8銅貨は流石に取り過ぎだろ─
巡礼者食堂に入って食事を頼むと、提示された料理はどれもこれも色の着いた値段をしていて無駄に頭を悩ませた。だが店員も慣れたモノで、思案する俺を察して高い理由を教えてくれた。この街は山頂にあり生産力が平地より低い。そのため麓から物資を上げる仕事が成立している。なので半分近くは輸送料や税として納められるそうだ。そう言えばロープで縛り合っていた冒険者達も大荷物を背負っていたし、さらに先行して閉門前に街に入った猛者達も、身長を超える程の荷物を背負っていた。
「そうだ。乾パン買わないか?」
「売る程あるなら買うけど…古くなってたりはしないよね?」
そりゃあ不安に思うだろうな。だが俺も引けないのだ。
「1つ出すから味を見て確認してくれ。下だと魔物の肉が食べられるから乾パンに手が出なくてな」
「羨ましいね。干し肉あるかな?」
干し肉はないので乾パンだけ出して食べさせた。乾パンは粉量が多く、この場で焼く手間がない。パン粥に入れるのにちょうど良い筈だ。
「うん。問題無さそうね。数は?」
「90近くあるぞ。1つ1銅貨でどうだ?」
「儲ける気ないのね」
「分かるだろ?」
「役人に盗られちゃったのね」
俺は金を持っていなかった。危うく無銭飲食となる所であった。
「ふふっ、その乾パン食べたら良いのに」
「水気と温度が欲しいんだ」
水はともかく、暖かい食事が食べたいから入店したのだ。ついでに美味ければ言う事はない。売り買いするなら奥へと言われて厨房に案内される。店員が持って来たザルに乾パンを並べ、150枚出した所で店員に驚かれた。
「貴方、そのカバン魔法付与されてるの?」
「でなければ50枚も入らないだろ」
実際は【±】で増やしたのだが、そう言う事にしておく。乾パン150枚が銀貨15枚に変わり、パン粥を奢ってもらえた。店員だと思っていたが、この女は店主だったそうだ。若くして店を持つとは立派である。パン粥の味は、まあパンを溶かした塩味のお湯。喉越しは良かった。
実母の生家があるこの街だが、長居するつもりは無い。さりとてすぐに出立もしない。用事を1つ、済ませようと思うのだ。
「いらっしゃいませ。初めての方ですね。輸送依頼の達成ですか?買い取りは一番奥のカウンターになります」
やはり輸送依頼が多いのか。見た目で冒険者と思われた。
「ギルドに加入しに来たんだ」
「なるほど、箔を付けにいらしたのですね」
聖地での加入は箔が付く。そんな話聞いた事ないが、受付嬢は得心が行った様子で受付を済ませてくれた。手渡されたギルド証に血を垂らし、所有者認定がなされた。
「無くしたら凄く高いですから、肌身離さずでお願いしますね」
ギルド証は魔道具だ。手持ちの金を最大1000枚この板に封じる事が出来、好きな時に取り出せる。再発行に掛かる金より、封じた金が無くなる方が痛いだろう。
俺は冒険者になった。別にならなくても良かったが、先程受付嬢が言った通り、ギルドに加入すると物が手軽に売れるようになる。ピンハネされるが手間を減らせるし、ギルド証に金を封じておけるので麓の役人に盗まれる事も無くなる。とても大事だ。手持ちの金を全て封じて、やっと街を出られるようになった。
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