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1 新天地は食事が美味い
直接依頼の仕事
しおりを挟む詰めれば10人は乗りそうな程広々とした6人乗りの車内にはミエレ姫と2人のメイド、そして俺。姫様の先制口撃に、メイド達は一歩出遅れた。俺は落ち着いて対処をしたが、本来あってはならん事だ。
「姫様、荷物を外すご許可を頂けますか?」
「許すも何もありませんわ。私退屈でしたのよ」
「ありがとうございます。ではメイドをお借りします」
本来ならメイドが先んじて動くべき所だが、声を掛けずらくなってしまっては仕方が無い。俺はメイドに荷物を下ろさせ、ついでに帯剣ベルトを外させた。例え知り合いであろうとも、王家の御座す密室に剣を帯びて入室する等あってはならんのだ。入室させた近衛も迂闊である。が、当の王家は気付いてなさそうなので穏便に済ませて頂こう。
退屈していた姫様は停泊地に着いて食事の時間になるまでお喋りを楽しまれた。俺の事、兄弟姉妹の事。ご自分の兄弟達の事。そして今回の旅の目的。色々と語り合った。
「まさか姫ご自身が婚約者様を出迎えに出るとは」
「はい。あってはならぬ事でございます」
食事を楽しむ姫様の影で、俺とメイドが話し合う。武器を外し忘れた一件の詫びから始まり、姫様からの話に出た旅の目的についての感想を漏らすと、メイドも同意見であると言う。密に接しては居ても止められる立場では無いのだ。進言は出来まい。
「アウディー様、冒険者と聞いてお願いします。姫様の警護を頼めませんか?」
「警護なら近衛だけで問題ないでしょう。まだ何か心配が?」
「心配しかありませんっ」
心配事を発し始めたメイドを宥める。声が大きくなり過ぎて姫様や近衛達の耳にも入ってしまったからだ。
「心配は理解しました。1度代表を集めて話をまとめるのが良いかと。ですので心を鎮めてください」
「……はい、取り乱しました」
王女ミエレの御座す御用馬車に、メイド代表スティカ、近衛代表アースブラッド、そして冒険者の俺が集められ、明日以降の話の場が持たれる。
「侯爵殿下のご子息である事はともかく、今は冒険者。冒険者を帯同させるのは兵の統制に難を生じます」
「統制はともかく、俺もそれには同意だ。許婚に会いに行くのに他の男を連れていては格好が付かないだろう」
近衛の代表は俺の同行をやんわりと否定する。俺もそれに乗っかって意見を述べさせてもらった。
「冒険者がダメならば、近衛にすれば良いじゃない」
短絡的な答えを出す姫様の案は、鎧が無いと言う理由で却下された。あわあわして、涙目でゴネ始める姫様はお可愛らしい。
「姫様、先に出ました通り俺は冒険者です。身分上帯同する事は適いません。が、先行して繋ぎを付ける事は可能です。先行した先の敵も排除する事ができましょう」
「それは、我等近衛の仕事を奪う事になりますぞ」
─黙っていれば良いモノを…─
「近衛の仕事は守護なさる事。仕事が1つでも減ればその分他に力を注げます。それに、俺は早めにニュールンベルクに入っておきたいのですよ。これでも依頼を請けてましてね。向かう先が同じならば、足並みを揃える必要は無いでしょう」
「アーレ…アウディー。行ってしまうの?」
「許婚様に斬られていなければ生きてニュールンベルクでお待ちしています」
「シシー、お手紙を書くわ。お友達の兄上が着られては嫌だもの。早くっ」「ただ今用意させます」
シシーと呼ばれたメイドのスティカは、馬車を出て他のメイドに準備をさせに行った。姫様直筆の親書があれば俺の首も少しは硬くなるだろう。
「アウディー殿」
冒険者でも元貴族の子息である以上、他国の貴族に討たれると波風が立つ。そして逆もまた然りであると近衛代表は告げる。俺だって完全にノータッチであったらどれだけ楽だろうかとも思う。
「こちらが抜かねば済む話。親書まで持たされた相手を斬る程、姫様は疎まれておりますまい」
「私、嫌われてますの?」
国の宝以上に愛されておりますよ。男二人で擁護しまくった。
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