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2 王国から帝国へ
俗称は、ぼったくり砦
しおりを挟むニュールンベルクでのランクアップ依頼をこなしたアウディーは王都カストル・デラクトスに戻り、自身の冒険者ランクを1つ上げる事に成功した。これで最下位ランクであった1から2へと上がり、より良い条件の依頼を請けられるのだが、飛び込みの買取で十分な稼ぎを得られるアウディーにとっては誤差でしかなかった。そして獲物の少ない王都に滞在する理由はなく、彼は荷物をまとめると、その日の夕方には王都を立った。
─闇夜に紛れて抜けてしまうか…、まあ、良いか─
全速力で5日駆け、ホールブレン帝国の国境、バンデルロウ国境砦に到着した。夜闇の空に灯る松明の火が、壁の高さを感じさせる。アウディーは、自分の身体能力であれば隙を突いて乗り越えられると考えたが、敢えて行動を起こす事はしなかった。マットロア達の隊を引き離していたので急ぐ理由もなかったのだ。彼の足で少し戻れば馬車の停泊地があり、明日の朝砦へ着くだろう馬車や、護衛か野良で狩りをしていたのであろう冒険者達が体を休めている。
「誰かいる」「向かって来ているな」
ヒソヒソと聞こえるのは敢えてアウディーに聞かせていると言う訳ではない。彼の耳が良過ぎるのだ。
「聞こえているぞ。神も人も静寂を好む時間だ」
返事をしながら停泊地へ入ると、焚き火に当たる冒険者達は立ち上がり、武器を手にして歓迎してくれていた。
「3人ぽっちで足りるのか?全員起こした方が良いのではないか?俺は寝るがな」
「…生言いやがる」「休むのは構わんがあまり近付かんでくれ」
「男と馴れ合うつもりはない」
言い捨てて、道中拾って来た枝を地面に刺す。長い物を2本と小さい枝が1本。各先端にマントを結わえ、簡易テントを拵えると荷物を背もたれにしてアウディーは体を休める。夜警していた冒険者達はその間警戒を解く事はなかったが、見て分かる脅威は対処可能であると察すると、自分達の仕事に集中した。彼等も休みたかったのだ。
夜明け前、馭者が目覚めて馬の世話を始めると、冒険者、そして乗客達も目を覚ます。アウディーは冒険者達と同じくらいに動き出し、乾パンを砕いたお椀に湯と塩等を注ぎ入れ、簡易的なパン粥を作って食べると寝床を片付け馬車より先に停泊地を出た。護衛をしてやる義理はない。
─物価次第だが、たまには良い食事にありつきたい─
そんな事を考えながら人並み程度にゆっくりと歩き、バンデルロウ国境砦には開門前に辿り着いた。
「何だ?一人旅か?」「馬車にくっ付いて来なかったのか」
開門をした兵士は1人で待っていたアウディーに声を掛ける。普通の冒険者は馬車の護衛を買って出て小銭を巻き上げるモノ。異質な者に興味を持つのも然りである。
「既に何人も居たからな。頼まれてもないのに守ってやる義理はない。停泊地は奴等が準備している最中に出たからそう差もなく着くはずだ」
「まあ、良いだろう」「国渡りするなら両替はしておけよ」
─すっかり忘れていたな─
両替。国が変わると貨幣も変わる。ホールブレン帝国ではデラクトス王国の貨幣は使えなくなり、両替商に安くない手数料を払って帝国貨幣に替えてもらう必要がある。その無駄金を減らすにはこの砦街で買えるだけの買い物をしてから国を渡るのが良いのだが、両替商と同じくらい他の店も繁盛していた。商人は、抜け目ないモノである。
その日は少し高い宿を取り、少し高い買い物と少し高い食事をして、無駄金を払って異国の貨幣に交換し、少し固いベッドで寝た。
国境越えはバンキーナ山地街よりだいぶ緩かった。金を殆ど残していなかったのもあるが、他国のすぐ側で馬鹿な事をして自国の評判を落とさせる訳にはいかないと言う、上に立つ者の見栄が大きい。要所であればある程治める者は賢い者が選ばれる。
─向かうは帝都。だが先立つ物も必要か…─
アウディーは使い過ぎて軽くなった金袋を満たすため、しばらくは金策に適した街に滞在しようと考えた。
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