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2 王国から帝国へ
存在は知っていた
しおりを挟む─荒んだ心を癒すには美味い料理に限る─
アウディーは気持ちを切り替えると街へ繰り出す。ディクストプンの街はバンデルロウ国境砦に1番近い街で、砦への物流を担う2つの街の1つである。もう1つの街とは二又になった街道のもう一方にあり、この街とも街道が繋がっているようで、彼が街に入ったモノではない門からは、その街からの馬車が入って来ていた。
─まだ開けている店は無い、か─
馬車が2列で往来出来る大通りを歩き3つ目の門前までやって来たが、アウディーの肉体Lvで嗅ぎ取れるだけの匂いはなかった。街に来たからにはそれなりに美味い物を食べたいのもあり拘ったのもあるが、時間的に開店している店がなかったのだ。あるのは青果や加工前の食品の露店が広場に並び、街の主婦達に睨まれている程度で、加工品の露店はまだ準備の最中。青く熟れた果物を1つ買い、喉を潤すしかなかった。
─甘みもなければ酸味もないな─
薄ら甘い汁を吸い、大通りを1つ2つと離れると、街の闇に近づいてしまう。
「坊や、暇なら付き合ってよ」「止めときなって」
気付けば人気疎らな通りに入っていた。通りから漂う食事の匂いに釣られたのだが、話し掛けて来た女からは酒と男の匂いがした。
「飯屋を探していたのだが、ここは酒場通りなのか?」
「あは、坊や。ここは色街さ」「夜には立ち入らないこったね。さもないと…」
2人居た女が3人4人と寄って来た。皆路地の中に隠れていたのは理解していたが、なかなか隠密力が高い。後ろまで取られてしまった。
「悪い気はしないが、皆を買う程稼いでないんだ。まだランクも2なのでな」
「なんだい、金無しかい」「稼いで来たら遊んでやンよ」「そン時ゃママがおっぱいしゃぶらせてあ・げ・る」「アハハ、何がママだババァのクセに」
それなりには持っているが敢えては言わない。
「おっぱいはいずれの楽しみにしよう。今はとにかく腹が減っててな」
「はぁ、来な。マスターに何か見繕わせてやンよ」「ハハッ、高く付くよ?」
最初に声を掛けて来た女は息を吐くと、何か食わせてくれると言う。高いだけの食事は嫌だが、親切心で言っている事は分かる。アウディーは女に付いて行く事にした。
「はあ?飯?ココは女を買うトコだよっ」
「姐さん、残りモンくらい良いじゃないですか。タダ飯食わせる訳でも無いんですから」
親切心は裏切られる事が多い。姐さんと呼ばれたマスターは娼館の経営者らしく、待合酒場のカウンターでタバコを吹かすと女を買わない客に悪態を吐いた。
─俺のせいで迷惑を被らせるのも悪いな─
「なら女を買わせてもらおう。それくらいの手持ちはあるからな。ちなみに店はやってるのか?」
「あンた、無駄遣いはおよしよ」
「店は準備中だよ。ま、金さえ払ってくれりゃあ酒とつまみくらい出してやンよ」
─この女から、俺への好意を増やせ─
「…じゃあ行くよ。シシディ、酒と食いモン持って来な」
「え?姐さん?」
「早くしなっ」
『ランデルから、アウディーへの好意を増やしました』
「姐さんは男を取らないのか?」
「ランデルって呼びな。アタシはコレって奴にしかヤらせないのさ」
─だから男の匂いがしないのか─
タバコと酒の匂いをまとう女に腕を取られ、階段を上がるアウディーは、この日を境にタバコを喫する事になる。あの場にいた女に言われた通り、確かに高く付く食事であった。
ランデルとアウディーは開店時間を過ぎても部屋を占有していた。シシディが持って来た食事を2回摂り、ベッドメイクも2回行われたが、その最中も止まる事はなく朝となった。
「満足したか?」
「仕事なの、忘れちゃったわ…。どうせ払えないンでしょ?ココで働いて行きなさい」
「ココで、か?」
「ンッ、そうっ、ソコッ、ソコでよっ」
宿代が浮いた事にアウディーは喜んで提案を飲み、初めての仕事を始めた。今日からこの部屋は賄い付きで彼専用に使われる事となった。
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