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2 王国から帝国へ
予定にない事をされると声が出てしまう
しおりを挟む加減を覚えるのに難儀して街にギリギリ辿り着いたアウディーは、這う這うの体で宿屋に入ると部屋のベッドに雪崩込み、大の字になって体を休める。
─今までは、数日置きにやっていた、からな…。とにかく…─
「ふぅ~…」
息を吐き、目を閉じる。食事はまだだが体を動かしたくはない。だがまだ寝る訳にも行かず、彼はスキルを行使する。
─女…では多過ぎる。貴族の女、良し。だいぶ絞れたな─
アウディーは気付いていないが【限定察知・生命】は職業や階級で対象を絞る事は出来ない。彼にそれが出来たのは、彼が貴族の特徴を理解していたからだ。なので貴族であってもその特徴を持ち合わせていない女性は彼が指定した対象から外れる事になる。例えば女性騎士、行儀見習いで勤めに入った令嬢に子供、そして聖職者。半径2kaもある広い帝都の全体を察知して、彼が対象を絞れたのは幸運であったのだ。
対象を食事中の夫人へ更に絞る。更に席の上座に座る者を残す。該当は2人。2人がいる2ヶ所だけを指定から解除して、残りは対象から外した。空席の具合、使用人の数を確認し、これが第二第三王子の母であると確信した。
─流石にお目通りない者に好意を持つ事は、無いよな─
アウディーはマットロア隊よりも先に対象と顔合わせしておきたいと思っていた。将軍やそれに準ずる上役であればともかく、歩兵の小隊長に会わせたい男が居ると言われてすんなり頷く貴族は多くない。謀を知る者は少ない方が良いに決まっているからだ。
「腹が、減ったな」
思わず口に出た言葉が次の行動のヒントになった。
─この女から、1w後に冒険者アウディーを裏口から密かに招き入れる予定を増やせ─
「……」
『エランリエーレ・トリントン・ホールブレンから、1w後にアウディーを屋敷へ招く予定を増やしました。これは秘密裏に行われます』
─大丈夫だろうか─
メイドに指示して招き入れるにしても、お喋りなメイドに指示を出せばその日の内に知れ渡るのが世の理だ。一人で事を成すにしても、周りの目は必ずある事で、誰にも知られずとは出来まい。アウディーは心配になったが、貴族に会うに相応しい姿へ変わるため、【恩恵】を使って身を正す。と言っても体と服を清めるだけだが。横になった姿で行ったのでベッドもキレイになった。
軽い食事と移動。1wかからずして、アウディーはとある屋敷の裏口に程近い茂みに身を隠す。門番がいない。明らかに不自然だ。彼は元々門番を【恩恵】で篭絡しようと考えていたのだ。ここに住む婦人が手筈を整えてくれたのだろうか。そうであれと願い、裏門へと近付いて行った。
「お静かにお願い致します」
声がして、立ち止まる。まだ門へは数歩あるが、声がしたのは背後からだった。声色と言葉遣いからしてメイドだろうが、魔法使いか暗殺者だろうか。背後の気配がないのをアウディーは感心した。
「コチラからお入り頂けます」
声がした方を振り向くと、斜向かいの小さな屋敷にメイドが1人、ランタンを持って立っている。どうやら風魔法の使い手のようだ。
「……」
「ようこそお越しくださいました。奥様がお待ちになられております」
小さな屋敷に招かれて、ドアに鍵が掛けられた。
「どの様な、ご関係で?」
声色が変わる。やはり威力メイドか。
「血を流さずに、と言えば理解出来るか?」
「貴方様が?」
「そのためだけに国を渡った。あちらには母も居るのでな、戦争を起こされては困るのだ」
「……では、腰の物をお預かりしても?」
「武器は己の肉体だけだよ」
「……確認させて頂きます」
武装しないで来たのだが、威力メイドは疑り深い。
「そ、そんな所にっ、いや、他の場所に仕込まれていた女は居たな…。ちゃんと手を洗えよ?」
「お心遣い、感謝致します」
服を脱がされ、尻の穴を犯されたアウディーは、かつて秘部に暗器を仕込まれたメイドシンスを思い出す。
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