±の成り上がり 〜無能と蔑まれる前に気付けた俺の最強卑怯な世渡り術〜

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2 王国から帝国へ

我欲に耐える者

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「返事に不満が?」

 早く返された手紙。それ自体に裏の意味は無い。しかしエランリエーレの表情は固い。それは手紙の内容に原因があるとアウディーは考える。その推測は正しかった。

「皇帝陛下の御前で?…成程、それは話しにくいな」

「アウディー様を御前に迎える事も出来ません。最悪、私はわたくしその場で取り押さえられる事になりますかと」

 言う事があるなら夫の前で。正室様はそう言っている訳だ。そんな場所で第二王子を次代に据えると言い放てば『どうて?』となるのは必定。相手の臆測で強行されてしまう可能性もある。唯一救いなのは御前に上がる日取りが3日後である事。

━3日以内、いや、余裕を持って動くべきだな━

 アウディーは第二夫人を抱き寄せると、唇を重ねる。が、舌が絡む程の余裕はなかった。

「アウディー様…」

「これから正室様を抱いて来る」

「酷いお方」

「エラン、俺は頑張る。お前も力を尽くしてくれ」

「帰ったら、寝かせませんからっ」

 上級貴族。顔色変えずに抱かれる事も出来ただろう。だが我欲に抗い役割を全うするのも貴族の意地。彼女の意地に見合う働きをしないと男が廃る。アウディーは生皮を剥ぐ思いでエランリエーレから離れると、そのまま小さな屋敷を出た。

━クソ……。抱く気でいたから治まらん━

 アウディーは勃起していた。そしてそれを治めさせる相手は既に決めている。しかし街全体に【限定察知・生命】を使い貴族の女を探しても、第一王妃は見付からなかった。

━街の外?馬車を使って1日なり1日半、走らせる…どうだろうか。後は……━

 【限定察知・生命】は地下を探す事は出来ない。それは自身が地下にいないからだ。水中も然り。アウディーは水中を捨て、地下を探す事に注力しようと考えた。いくら身を守るためとは言え、水中に2日3日滞在するのは無理が過ぎる。出来る力があると言うのが不安を誘うが、まずは地下と決めた彼は街の下水が集まる排水口へ向かった。

「うっ」

━湧水池に行こう━

 貴族たる者こんな所の近くにいる訳が無い。アウディーは即断した。

 帝都の湧水池。コレが無ければここに街を興す事はなかっただろう。貴族専用に使われるこの水源は堅牢かつ豪奢な造りの建屋に囲われ、幾多の兵士によって外敵の襲来に備えていた。

━王都でもそうだが、やはり当たりに近付いているな━

 彼は不安をこらえ、【恩恵】を使った。

━俺から、他の生き物に感じ取る事の出来る感覚を全て減らせ━

 その瞬間、顔に当たる風の感触が変わった。風はある。だが顔を通り越して後頭部に抜けて行く。しかし髪や肌に当たる感触は無い。気付けば服が落ちていた。辛うじて靴は履いているように見えたが、足を上げるとそこに靴はあった。アウディーは交互に足を上げる。下ろしたままでは地面にめり込んでしまうのだ。

『じょ、冗談では…』

 思わず声に出した言葉が、【恩恵】を使った後に放たれる言葉同様、頭の中に響いている感覚を得た。口から音が出ないのだから耳で聞こえないのは然りである。

 アウディーは空中を泳ぐように腕を回す。足を上げれば沈まないのであれば、と取った行動だが、存外上手く行った事に息を吐く。体が浮いた感触を得て空を泳いで湧水池へ向かうが、全裸の男が空を泳いでいると言うのに見張りの兵士達は誰一人としてその奇行に気付く事はなかった。

 固く閉ざされた扉であっても壁をすり抜けてしまえば意味を成さない。湧水池から溢れる清らかな水を見て心洗われるアウディーであったが、心の奥底から溢れ出る悶々とした気持ちは収まらない。湧水池周りを範囲としてもう一度【限定察知・生命】を試みたが、あるのは兵士の反応だけ、しかも建屋内に反応は無かった。

━やはり、下なのだろうな━

 彼は【限定察知・生命】を発動させたまま、清水の流れる先、地下水道へ降りて行く。すると全身が地下に入った瞬間【スキル】が消滅した。









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