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2 王国から帝国へ
祭の前
しおりを挟む剣術だけでなく、【恩恵】を使って魔物を屠る事も確認出来たが、他のパーティーの飯の種でもあるので乱用は避ける。
─ドロップだけ残して減らす事も出来るのか…。何でもありの【恩恵】だが、使い過ぎると敵を増やしかねんな─
その時は敵を減らせば済む話だ。が、害意を減らしてまだ100日程のアウディーに、冒険者達を殺すと言う選択は浮かばなかった。
目の前の敵を流れ作業のように倒して行くアウディーにその意思はなかったが、敵のいる所へ向かう事は同時に、彼を他の冒険者達と鉢合わせてしまう事となる。冒険者達は下階への階段がある空間で休んでいた。しかも別れて行動していた11人が集まっている。
─コイツ等、仲間なのか?─
仲間かどうかはさて置き、彼等の新参者を見る目はどうにもいけ好かない。まるで下階への道を封じているようではないか。アウディーは階段へ向かいながら苛立ちを抑えた。
「貴方、1人?依頼かしら?」「下には行かん方が身のためだ」
親切心か、男女の2人が声を掛けて来る。どちらも上から目線で気持ちの良いものではない。
「気遣いには感謝するが、俺もコレで食べているのでな」
アウディーは腰の物を強く叩き言葉を返すと階段を降りる。冒険者達はそれ以上の接触はしなかった。生きるのも、殺されるのも冒険者の自由であるからに他ならない。
階段を降りて地下二階層。ここには【限定察知・生命】に反応する人間はいない。その代わりに敵の数が上と桁違いになっていた。通路を埋め尽くす程の魔物の数はダンジョン初体験のアウディーにも異常である事が分かる。普段のダンジョンはこの一割程度もいないのだ。コレを放置するとダンジョンフィーバーが発生するのだが、詳しい発生内容を知る者はこの場にはいない。
─全滅させるのは簡単だが…、冒険者達の飯の種がなんだと言われかねん。間引く程度に抑えるか…?─
彼は考えた結果、一つの案を思い付き実行させる。
「……グルル…」
「……」
「グギッ、ギギッ」
「……」
アウディーの発想は上手く行った。魔物ひしめく通路を、彼は縫うように避けながら奥へと進む。【恩恵】に、アウディーに対する者から害意を減らせと指示した結果、ダンジョンの魔物に接触しても反応を示さなくなったのだ。たまに唸ったり奇声を上げたりしているが、それは多分何もしていなくてもそうしているのだろう。近くにいる魔物も気にする様子もなく、じわじわと上り階段へと近付いて行った。
─コイツ、押すなっ…。これは、奥から詰めて来てるのか?─
アウディーは魔物達に押されながらも合間を縫って奥へ分け入り、原因の一つを突き止めた。そこは扉の壊された部屋になっていて、魔物が溢れて出していた。
─これも聞いていた通りか─
ダンジョンフィーバーの予兆として、ダンジョンが破壊出来るようになるとトロイヤから聞いていた。もちろん普段のダンジョンなら物も壁も壊れる事はない。だが何かの切っ掛けで壊れるようになると、魔物の出現罠が壊れる事で魔物が部屋に溢れ、扉を破壊し外に出る。そして階層全体に密集すると、上下の移動をしないダンジョンの魔物が上へ上へと押し流される…そうアウディーは考えた。アウディーは【恩恵】を使い、部屋の中を空にする。すると間もなく部屋のあちこちから1匹、また1匹と魔物が発生した。
─この部屋自体を壊せば湧かなくなるが、この程度の相手なら冒険者達でも問題無かろう─
アウディーはその場を離れ、下階を目指した。本当は魔石を拾って行きたかったが、湧き出した魔物が混み始めたので諦めた。
─上がって来てからがダンジョンフィーバー、だったな─
地下三階層。ここも魔物でいっぱいだが、魔物の質が上より良くなっている事に気付く。金属の鎧に刃こぼれの少ない剣。頭の無い骸骨が纏うには良質過ぎる武具は、アウディーの纏う装備より上質に見えた。
─ドロップで落ちるなら…嵩張るだけか─
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