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平凡姫と勃たないエルフ(異世界)
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初夜だからだろう、と考えていた行為だったが、毎夜開催される。
ぐっすりと深い眠りから、彼女の香りによって起こされるのだ。濃いばかりで辛いと思っていた香りは徐々に病みつきになっていく。特にエリシアが達した直後に発する香りに頭をガツンと殴られるような衝撃を覚えるようになってからは、香りを発する蜜源に鼻をくっつけてしまいたいという衝動に狩られるようになった。さぞかし流れ出る蜜も甘いのだろう。まぶたを閉じたまま、初夜だけ見開いた瞳に焼き付いた彼女の華を思い浮かべる。だらしなく張り形の間から蜜を垂らし、惜しげもなくタオルへと垂らしてしまっていた。
垂らしたそれを舐めるくらいなら許されるのではないか?
ウィーガンが名案を思いついたのは、エリシアと婚姻を結んでから2カ月が経ってのことだった。
今夜もすでに蜜を吸い込んだタオルは回収されてしまっている。じきにエリシアに命令されたメイドが残った蜜すらも拭き取ってしまうだろう。部屋に残った香りすらも堪能出来なくなる。
だからウィーガンはエルフの優れた聴覚を利用し、エリシアが完全に遠ざかったのを確認してからベッドを飛び出した。そして香りが濃く残る場所に手を付き、床に舌を這わせた。そこには微かな甘い蜜と共に彼女の汗が残っており、口内で混ざり合ったそれはどんな果実よりも甘かった。一年に一度、祭りが行われる日にのみ食べることを許される果実よりも甘美で、それでいて中毒性がある。一度覚えてしまえば抜け出せるはずがない。ウィーガンは汁を求めるように、ベロベロと床を舐めた。
まるで獣のようだ。
けれど止めることは出来なかった。
気づけば下穿きの中に隠された竿は見事なまでに勃ちあがっており、穴を求めてヘコヘコと腰を振っていた。けれど一向に先端からは子種が発されることはない。収めるべき場所がないからではない。300年以上、一度も出されなかったそれが外へ出ることを拒んだからだ。おかげで掃除を命じられたメイドが近づく音を聞きつけて急いでベッドへと戻ったウィーガンの昂ぶりは収まらぬまま。布団の中で勃ちあがったそれに「おさまれ、おさまれ」と念じることしか出来ずにいた。もちろん彼だってそれを手でしごけば、簡単に沈められると知っていた。けれど実行に起こすことは出来なかった。
人族にエルフ族の子種を渡す訳にはいかないからーーというのは建前だ。
帰ってきたエリシアに雄の香りを感じさせたくなかった。無事に勃起するようになったウィーガンは300歳を越えた今になって発情することに恥ずかしさを覚えるようになってしまったのだ。
散々エリシアの香りを堪能しておいてひどい話である。
張り形を取り払って蜜を舐め取った後で、自分の昂ぶりで中を刺激したいと毎夜想像しているくせに。
ウィーガンは結婚して半年が経った日、エリシアが突如として落とした爆弾に目を剥いた。
『勃起』なんて、まさか彼女の口から発せられることがあるとは思わなかったのだ。
卑猥な言葉に思わず勃ちあがりかけたが、すぐに下半身に集まりかけた血は体中に分散した。
もしも毎朝残った蜜を舐めながら勃起していると彼女が知ったら、軽蔑するだろうか?
そんな想像をして頭が真っ白になる。
「どうすればウィーガン様は興奮されますか?」
真面目な表情で疑問をなげかけるエリシアに、正解を告げることは出来なかった。だから代わりにエルフに関するとある情報を植え付ける。
「成熟したエルフが性的な興奮を覚えることはほとんどない」
間違ってはいない。
ただここ一ヶ月ほどのウィーガンはそれに含まれないというだけで。
早くこの情報を与えていれば、彼女も毎夜あんな行為に浸らずに済んだかもしれない。
それにウィーガンが獣のような行為に耽ることも。
だがこれであの興奮から解放される。
一抹の寂しさを覚えたウィーガンだが、快感に支配される瞬間は自分が自分ではなくなる恐怖を帯びていた。終わりに出来るのならばそれに越したことはない。
一足先に終わらせた気でいるウィーガンの目の前で、エリシアは残念そうに言葉を紡ぐ。
「そうですか……。では興奮したら伝えてください。時間を問わず迎え入れますので。寝所以外でも子作りする可能性があるならメイドにも伝えておかなければなりませんね」
どうやら彼女は諦める気がないらしい。
それどころか寝所以外の場所で押し倒されることを想定して、考えに耽っている。
もしウィーガンが王家自慢のバラ園で求めれば、外で性交渉を始めるというのだろうか?
エルフからは疎まれる豊満な胸を上下に揺らし、男を欲してつぼみを濡らし、張り形ではなくウィーガンの雄をあてがおうというのか。
二種類の華の香りが混ざり合うことを想像し、ウィーガンの雄は勢いよく顔をあげた。考え込むエリシアの目を盗んでベッドサイドに置いた羽織を手に取って、昂ぶりを隠す。
エルフの正装をこんなことに使っていると知れば、ウィーガンに尊敬の念を向ける兄は失望することだろう。朝の行為を目にすれば卒倒するかもしれない。
けれど兄に失望されようと、この昂ぶりはそう簡単に収めることは出来ないのだ。
ぐっすりと深い眠りから、彼女の香りによって起こされるのだ。濃いばかりで辛いと思っていた香りは徐々に病みつきになっていく。特にエリシアが達した直後に発する香りに頭をガツンと殴られるような衝撃を覚えるようになってからは、香りを発する蜜源に鼻をくっつけてしまいたいという衝動に狩られるようになった。さぞかし流れ出る蜜も甘いのだろう。まぶたを閉じたまま、初夜だけ見開いた瞳に焼き付いた彼女の華を思い浮かべる。だらしなく張り形の間から蜜を垂らし、惜しげもなくタオルへと垂らしてしまっていた。
垂らしたそれを舐めるくらいなら許されるのではないか?
ウィーガンが名案を思いついたのは、エリシアと婚姻を結んでから2カ月が経ってのことだった。
今夜もすでに蜜を吸い込んだタオルは回収されてしまっている。じきにエリシアに命令されたメイドが残った蜜すらも拭き取ってしまうだろう。部屋に残った香りすらも堪能出来なくなる。
だからウィーガンはエルフの優れた聴覚を利用し、エリシアが完全に遠ざかったのを確認してからベッドを飛び出した。そして香りが濃く残る場所に手を付き、床に舌を這わせた。そこには微かな甘い蜜と共に彼女の汗が残っており、口内で混ざり合ったそれはどんな果実よりも甘かった。一年に一度、祭りが行われる日にのみ食べることを許される果実よりも甘美で、それでいて中毒性がある。一度覚えてしまえば抜け出せるはずがない。ウィーガンは汁を求めるように、ベロベロと床を舐めた。
まるで獣のようだ。
けれど止めることは出来なかった。
気づけば下穿きの中に隠された竿は見事なまでに勃ちあがっており、穴を求めてヘコヘコと腰を振っていた。けれど一向に先端からは子種が発されることはない。収めるべき場所がないからではない。300年以上、一度も出されなかったそれが外へ出ることを拒んだからだ。おかげで掃除を命じられたメイドが近づく音を聞きつけて急いでベッドへと戻ったウィーガンの昂ぶりは収まらぬまま。布団の中で勃ちあがったそれに「おさまれ、おさまれ」と念じることしか出来ずにいた。もちろん彼だってそれを手でしごけば、簡単に沈められると知っていた。けれど実行に起こすことは出来なかった。
人族にエルフ族の子種を渡す訳にはいかないからーーというのは建前だ。
帰ってきたエリシアに雄の香りを感じさせたくなかった。無事に勃起するようになったウィーガンは300歳を越えた今になって発情することに恥ずかしさを覚えるようになってしまったのだ。
散々エリシアの香りを堪能しておいてひどい話である。
張り形を取り払って蜜を舐め取った後で、自分の昂ぶりで中を刺激したいと毎夜想像しているくせに。
ウィーガンは結婚して半年が経った日、エリシアが突如として落とした爆弾に目を剥いた。
『勃起』なんて、まさか彼女の口から発せられることがあるとは思わなかったのだ。
卑猥な言葉に思わず勃ちあがりかけたが、すぐに下半身に集まりかけた血は体中に分散した。
もしも毎朝残った蜜を舐めながら勃起していると彼女が知ったら、軽蔑するだろうか?
そんな想像をして頭が真っ白になる。
「どうすればウィーガン様は興奮されますか?」
真面目な表情で疑問をなげかけるエリシアに、正解を告げることは出来なかった。だから代わりにエルフに関するとある情報を植え付ける。
「成熟したエルフが性的な興奮を覚えることはほとんどない」
間違ってはいない。
ただここ一ヶ月ほどのウィーガンはそれに含まれないというだけで。
早くこの情報を与えていれば、彼女も毎夜あんな行為に浸らずに済んだかもしれない。
それにウィーガンが獣のような行為に耽ることも。
だがこれであの興奮から解放される。
一抹の寂しさを覚えたウィーガンだが、快感に支配される瞬間は自分が自分ではなくなる恐怖を帯びていた。終わりに出来るのならばそれに越したことはない。
一足先に終わらせた気でいるウィーガンの目の前で、エリシアは残念そうに言葉を紡ぐ。
「そうですか……。では興奮したら伝えてください。時間を問わず迎え入れますので。寝所以外でも子作りする可能性があるならメイドにも伝えておかなければなりませんね」
どうやら彼女は諦める気がないらしい。
それどころか寝所以外の場所で押し倒されることを想定して、考えに耽っている。
もしウィーガンが王家自慢のバラ園で求めれば、外で性交渉を始めるというのだろうか?
エルフからは疎まれる豊満な胸を上下に揺らし、男を欲してつぼみを濡らし、張り形ではなくウィーガンの雄をあてがおうというのか。
二種類の華の香りが混ざり合うことを想像し、ウィーガンの雄は勢いよく顔をあげた。考え込むエリシアの目を盗んでベッドサイドに置いた羽織を手に取って、昂ぶりを隠す。
エルフの正装をこんなことに使っていると知れば、ウィーガンに尊敬の念を向ける兄は失望することだろう。朝の行為を目にすれば卒倒するかもしれない。
けれど兄に失望されようと、この昂ぶりはそう簡単に収めることは出来ないのだ。
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