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迷い人シリーズ(異世界転移)

私の愛おしい迷い人(王子視点)

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 迷い人――それはごく稀に他の世界から迷い込んでくる人。
  
 今までこの世界に迷い込んできた彼らは年齢や性別、性格、髪や瞳の色は様々だった。また元の世界に帰りたがる者もいれば、この世界を気に入って残りたがる者もいる。
  
 そんなバラバラな彼らだったが、1つだけ共通点がある。
  
 それは彼らは決まって元の世界から『幸福』を持ってきてくれるということだった。
  
 この世界の文明の発展に大きく関わった迷い人は10人ほど。それを少数ととるか多数ととるかは人それぞれだろう。
  
 だが人々の生活は大きく変わり、平等にもたらされた幸福のおかげで戦争すらなくなった。
  
 平和の象徴でもある『迷い人』に関する童話は多く出版され、未だ出会ったことのない私も幼い頃から何度と迷い人の物語を読み聞かされてきたものだ。
  
 当たり前のように大陸の歴史や経済、伝統にまで関わってくる『迷い人』の存在はどこか神様の使いのようだった。
  
 この世界では『迷い人を歓迎せよ』との決まりができているほどだ。
  
 ここ数百年ほど、この世界に迷い人は訪れていないというのに……。
  
  
 神様もついにこの世界を見捨てたか。
 もうある程度発展したからこそ、子離れでもしたと考えるのが道理だろうか。
  
 今さら迷い込んだところで、これ以上発展を望む箇所などもう残っていない。
  
 食糧事情は改善され、最底辺から抜け出した人々は食の楽しみを見出した。
 住居は立派なものへと変わり、寒さ暑さで命を落とすことが劇的に減った。
 病は原因と対抗策を教えられ、健康を保つ術も教わった。衛生を意識し出したのもこの頃だという。
 その上で心を満たす娯楽を教えられ、作業効率が上がった。他の迷い人から得た知識で産業、工業面での発達も遂げていった。
  
 迷い人が居なかった数百年間だってこの世界の住人が怠けていた訳ではない。
 先人達の知識を活かして日々進歩していったのだ。
  
 これ以上、何を望むというのだ。
  
 幼い頃から兄弟や他の子ども達が迷い人に会いたいと願うのを横目で見ながら、私はバカらしいとため息をつきながら現実だけを見据えていた。
  
  
 それから20年近くの歳月が流れた今なら言える。
  
 少年よ、夢を見ろ――と。
  
 実に数百年ぶりにこの世界に現れた迷い人は、この国の王の間へと迷い込んだ。
  
 絵画として残されていたどの人物よりもくりくりとした瞳を持つ少女は身を震わせていた。突然他の世界に来て、驚いているのだろう。リスのようにくりくりとした瞳にも不安の影が宿っていた。
  
 私達は大事な大事な迷い人にゆっくりと、彼女の身に起こった出来事を伝えた。
  
 ここはあなたがいた世界とは違う世界で、あなたはこの世界に迷い込んだのです。
  
 過去の経験に乗っ取りながら説明すると、彼女はぷっくりとした唇を小さく動かして「異世界?」と呟いた。
  
 その瞬間、不思議と彼女の怯えは少しだけ引いたようにも思えた。
 だからこそ私達はこの世界の魅力を語り、その上で『還る』という選択肢もあることを示した。
  
 私達にとって迷い人は『幸せの配達人』のようなもので、無理に留めておくつもりなどない。そんなことがバレれば他国からバッシングを浴びるだろうし、何より無条件で守りたくなる少女には一番幸せな選択をして欲しかったのだ。
  
「私、帰りたくないです……残っていいのなら、この場所に居させてくれるなら、ここにおいてください!」
  
 だからこそ彼女のその言葉に胸が湧き上がった。
  
 すぐさま父である国王に視線を送り、迷い人の担当者に名乗りをあげる。するとすぐに国王は了承するように小さく頷いた。
  
 過去の例を見ても迷い人の担当者は王族、もしくは彼らが現れた場所の関係者がほとんどである。
  
 本来ならば第一王子である兄にこの役目を譲るのが最適だろうが、兄はすでに妻を娶っている。政略的な婚姻ではあるものの、夫婦仲は円満。側室として迎えるという選択肢もあるものの、国王はその選択肢を選ばなかったというわけだ。
  
 国王の考えはどうであれ、私としては一目惚れした少女の担当になれて万々歳だ。
  
 なにせ迷い人の担当者は生涯のパートナーを意味する。
  
 なぜなら迷い人がこの世界に滞在するためには毎日現地人の精を注ぎ込む必要があるからだ。その間に魔法道具でお互いの精力を特殊な物に変えることでより一層、精の力を強めるがこちらは必須ではない。一応『着床の儀』という名前は付いているものの、ようは性的な交わりである。
  
 それをオブラートに『この世界に残るための魔法』と言い換えて伝えれば、少女は目を輝かせる。
  
「いいんですか!?」
「はい、もちろんです」
  
 けれどすぐにランランと輝く瞳に少しだけ罪悪感を覚えて「私の精をあなたに流し込むだけですから」とネタバラシをする。
  
「へ?」
 ポカンと口を開けて首を傾げる姿はまるで小動物のよう。パチクリと瞬きをする姿も愛らしさに溢れている。
  
  
 寝室まで案内して、早速……なんて思ったものの、その少女は身持ちが固いらしくそう簡単には身体を許してはくれない。
  
 だがそれすらも可愛らしくてたまらないのだ。
  
 ベッドの上で「恥ずかしい……」と真っ赤になった顔を押さえては、隙間からこちらを覗き。
 服を少しずつ脱いで、綺麗に畳んだかと思えばシーツで絹のような肌を隠し。
 所在なさげにキョロキョロと周りを確認したかと思えば、今度はシーツを引きずってベッドの端っこまでズルズルと移動していく。
  
  
 少しずつ距離を詰めてもこちらを申し訳なさそうにチラチラと窺うだけで、決して逃げはしない。
  
 指通りの良さそうな髪に手を伸ばし、梳くように撫でれば、その少女は気持ちよさそうに目を細めた。
  
 まるでネコのようだ。
  
 迷い人は丁重に扱うように、との決まりがあるが、そんなのなくたってこんなに可愛い生き物を大事にしない訳がない。
  
 儀式を行うのは今晩中。まだ時間は残っている。
  
 先にご飯にでもしよう。
 ドアの外に立たせている使用人に声をかけ、食べやすいものを夕食に頼んだ。
  
 それからしばらくして運び込まれたのはシチューだ。これなら簡単に食べられるだろう。トレーに乗ったシチューを見つめていると、ふととある考えが頭をよぎった。
 ベッドサイドに腰をかけ、シチューをスプーンで掬った。このままでは熱いだろうとふーふーと冷まして「はい、どうぞ」と口まで運んでみた。
  
 食べてくれたらいいな、なんて思いながら。
 つい出来心での行動ではあるものの、もちろん嫌がる素振りを見せたらすぐに止めるつもりだ。
  
 迷い人との関係の悪化があってはならないからだ。
  
 けれど彼女は少し戸惑いながらも、小さな口を開いてパクリとスプーンを口の中へと迎えてくれた。
  
 私の手ずから食事をとってくれたのだ。
  
 思わず感動しながらももう一度と繰り返せば、先ほどよりもスムーズに迎えてくれる。
  
 なるほど。これが迷い人が連れてくる幸せというものか。胸を幸福で満たしながら、これから訪れるであろう今以上の幸福に想いを馳せる。
  
 けれど幸せのトリップをしている私とは正反対に、少女は目に涙が浮かべていた。
  
「あ、熱かったですか?」
「いえ、ちょうどいいです」
「では美味しくなかったとか……今すぐ作り直させますので」
  
 未来に意識を向けていたせいで、適温まで冷ましきっていなかった?
 それとも口には合わなかった?
  
 どちらにしてもこの愛らしい少女の目に涙を浮かべる原因は排除せねばなるまい!
 すぐさまトレーを手に立ち上がる。けれど少女は私の腕を柔らかい手で包み込んだ。

「美味しいです!  美味しいですから!」
「ならどうしましたか?」
「えっと……」
  
 なんて事なく発したその問いに少女は縮こまって俯いてしまった。
  
 お皿の中のシチューは残りわずか。
 その上、少女の指先は少しだけ消えかけてしまっている。
  
 このタイミングでの涙の意味はきっと……。
  
「……怖かったんですね」
「え?」
「優しくしますから。私に身を委ねてください」
  
 少女の手を優しく包み込む。そして邪魔なトレーをサッサと片付けて、少女の背後へと回り込んで膝に座らせた。
  
 こういうシーンでは女性はムードを大切にするという。
 一応その手の教育を受けてきてはいるものの、異世界の住人である彼女を満足させられるかは正直不安なところである。
  
 だがここで引くつもりなどない。
 緊張がバレないように小さく息を吸った。そして左手で少女の視界を奪いながら、耳に唇を当てる。
  
「そろそろココ、欲しくなってきませんか?」
 囁きながら布越しに少女の秘部をトントンとノックする。するとそれに応えるかのようにクロッチ部分がじんわりと湿っていく。
 その恥ずかしさからか「ぁ……」と小さく声を漏らす少女は太ももを擦り合わせて身をよじりながらおねだりをする。
  
 それはこの世界に残るための、迷い人ならではの性質なのか。それとも彼女自身がインランなのか。
  
「さすが迷い人ですね。誘うのが上手だ……」
  
 どちらにしても私の欲を最高潮まで引き上げたのは他でもなく彼女であり、また私を迎え入れるのも彼女である。
  
 彼女の下のお口を塞ぐショーツを少しだけ下にずらし、昂ぶったそれを強く突き立てた。
  
「っ!」
 彼女も感じてくれているのか、手足を痙攣させながら上下のお口でイヤラシイ音を奏でてくれる。
  
 ああ、可愛い。
 彼女を手放したくないという思いは性欲へと変わり、彼女の指先からはとっくに透明感など消え去ったことも忘れて、クラシックよりも高尚な音楽を奏で続けた。
  
  
  
 窓から差し込む朝日を浴びながら、何度となく果て、意識を失った少女から汚れきった下着を取り外す。彼女の身体中に飛び散ったドロっとした自分の白濁を拭き取ってしまうのは、少しだけ勿体なく思える。けれど今の私は虚無感よりも幸せが大きい。今後毎日こんな日々が続くのだと思うと自然と頬がほころんだ。
  
 ああ、そうだ。
 目を覚ましたらきっと喉が渇いていることだろう。
  
 汚れてしまった布を交換するついでに、水差しをもらってこようとベッドから立ち上がった。
  
  
 ――そして部屋に戻ると、確かに真ん中で寝かせたはずの少女はすでにベッドの端の方まで移動を完了させ、何かへと手を伸ばしていた。
  
「何してるんですか?」
 彼女の願いなら何でも叶えてあげようと心に誓って、その両手を包み込む。
  
 けれど彼女の要求は至ってシンプルなものだった。
  
「……み…………………ず」
 少女はその言葉を残して再び意識を手放した。
  
  
 どうやら私はやりすぎてしまったらしい。
 消えかけていたから、と説明したがそんなのは理由の半分もない。けれどあなたが愛らしくて盛ってしまった、なんてそんなケモノみたいなことを言い出せる訳もない。
 私にできることといえば、翌日からは彼女のカラダの様子を考えながらゆっくりと行為を行うことだけだ。
  
 急がずとも私は迷い人の、彼女の担当者なのだ。
 そう自分に言い聞かせ、暴発しそうになるのを何度堪えたことか……。
  
 だがその甲斐あって、彼女の身体は日に日にこの世界へと適応していった。
  
「私も何かお役に立ちたいのです!」
 そう言いだしたのは彼女がこの世界に迷い込んでからひと月ばかりが経った時のことだった。
 彼女の身体が心配だったが、何度も『ここで働かせてください』『私も王子達のお役に立ちたいのです』と可愛い顔で懇願されては許可を下ろすしかあるまい。
  
 まだ国民に向けて正式に発表してはいないが、彼女は立派な王子妃。彼女の望みで働かせてはいるものの、王子妃が公務以外で働くのは非常に珍しい光景だろう。
 それにこの世界の人間よりも子を成し辛いとされる迷い人だが、文献に残っている過去の迷い人達が1人目の子を成したのは彼らが訪れてから1年と経っていない。
 つまり彼女のお腹にはもう私の子どもが宿っている可能性もあるというわけだ。
  
 彼女の思いも優先したいが、身体が心配なのもまた事実。
  
「奥様はそんなことなさらなくとも、私共が致しますので!」
「私はただの居候だから気にしないで」
  
 なるべく仕事を任せたくない使用人達と、お手伝いしたい少女との格闘は日常茶飯事となっていた。
  
 だがそれもそろそろ使用人達が可哀想になってきた。
 それに何より両親達はすでに孫が出来るものとばかりに心を躍らせている。
  
 次の休みにでも宮廷医師に妊娠の確認をしてもらうことにしよう。
  
 彼女との子どもなら可愛いに違いない!
  
 まだ宿っているかも分からぬ子どもを想像しながら、午後からの公務に励むのだった。
  
  
 そして弾む心で彼女の待つベッドへと向かったその夜――衝撃の言葉が彼女の口から発せられた。
  
「あの、この儀式のことなんですけど……毎日王子に相手をしてもらうのも気が引けますし、他に誰かいい人いませんか?」
  
 どうやら子ども問題以前に、彼女は私との行為にまだ満足していなかったらしい。
 今まで少女への溢れんばかりの愛を注いでいたつもりだったのだが……この様子だと全く足りていないのだろう。
 彼女は非常に分厚いオブラートに包んでくれたようだが、私の技術不足という事実が胸を突き刺した。
  
 絶望的な事実だが、こればかりは精進あるのみ!
  
 王子なんて立場に胡座をかいていたら、すぐさまその技術の高い男に攫われてしまうだろう。
  
  
 その日から王家秘伝の精力剤をキメるのが私の日課となった。
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